株式会社インプレスホールディングス

業種
情報通信業
企業規模
301~1,000名
課題
生産性向上 / 採⽤と定着 / エンゲージメント向上
インプレスグループは、2015年から部分的にではあるものの、柔軟な勤務形態の導入を開始し、コロナ禍を機にテレワークを中心とした「新しい働き方」を本格的に導入しました。テレワークを経営戦略的な「投資」と捉え、手当の増額や遠隔地勤務を促進。特に特徴的なことは、社員が働く場所や時間を主体的に選択できる「Selectable Work Life」という哲学があることです。社員の「ハピネス」を追求し、自律性を尊重する文化が、組織の生産性と成長を支えるエンジンとなっています。
始まりはワークライフバランスの再定義から
2015年、静かなる始まり。多様なライフスタイルに寄り添い、「ワークライフバランス」の意味を再定義した。
インプレスグループの変革は、コロナ禍という外的変化によって「やむなく」始まったものではない。時計の針を2015年に戻そう。まず着手したのは人事制度の「抜本的な見直しと再構築」だった。
「働き方」においてその核となったのが、「ワークバランス・スタッフ制度」だ。特筆すべきは、その対象。育児や介護といった、「義務的」な理由に限定しなかった。 「子供の受験を支えたい」「未知の領域を学びたい」「ボランティアに参加したい」——。社員一人ひとりの多様なライフステージに、組織がどこまで寄り添えるか。この問いに対する答えが、週4日勤務や短時間勤務の自由な選択だった。世間がようやく正社員を含んだ「短時間勤務」を語り始める数年も前から、同社はすでに「働き方は一つではない」という価値観を組織に浸透させていたといえる。
挑戦
「紙」の山に挑んだ2020年。DXは必然となった
2020年2月、パンデミックという未曾有の事態が生じた。出版社という、いわば雑誌や単行本編集に付き物の「締切」に追われ、密なコミュニケーションと「紙資料の山」が常識とされてきた業種にとって、それは致命傷になりかねない危機だった。しかし、同社は迷わず「原則在宅勤務」へと舵を切る。
在宅勤務に合わせて最初に取り組んだのが、フレックス制度で決められていた11時から15時のコアタイムを撤廃したこと。出社は「義務」から、目的を持った「選択」へと変わった。リアルな会議室はGoogle Meetに置き換わり、請求書などの紙資料はPDFへと姿を変えた。当初、管理部門の人間ですら抱いていた「在宅で本当に仕事は回るのか?」という疑問は、わずか1年で「場所の選択の自由は、クリエイティビティそのもの」という確信へと変わった。物理的な制約を捨て去ったとき、DXが加速し、業務のあり方が大きく変化した。
独自戦略
テレワークは「投資」。経営を研ぎ澄ます「戦略的コスト」の配分
世の中の多くの企業が、テレワークを「福利厚生」や「コスト削減」と捉えていることがまだ多い。だが、同社の定義は違う。これは経営を強化するための「戦略的投資」という考え方だ。
「戦略的コスト」の配分では、2021年に支給を始めた月次の「リモートワーク手当」を2023年には「ワーク&ライフ手当」へと改善させた。単なる光熱費の補填ではない。世界的なインフレから社員の生活を守り、その「心の余裕」を仕事への情熱へと転換させるための投資だ。 環境への投資という点では、フリーアドレス化やカフェスペースの設置、コワーキングスペースの利用補助など、生産性を高めるための環境整備へ投資している。
それまであった「オフィスと居住地の距離は100km圏内だろう」という固定観念を捨て、「遠隔地勤務制度」も導入した現在、グループの出社率は3割程度で推移。優秀な人材を取り合う採用面において、この「個人のライフスタイルを尊重する姿勢」こそが、最強の武器となっている。
また、オフィスの改革への挑戦では、以下のような施策が実施された。
・壁を壊せ、心理を繋げ。ABWが変えたオフィスの概念
働き方の改革は、物理的なオフィスにも及んだ。東京都千代田区神保町にある同社の本社22、23階に広がるのは、1.5フロアを融合させたABW(Activity Based Working)の実験場だ。 カフェのような喧騒の中で思考を巡らせる社員もいれば、照明を落とした静寂のエリアで一点に集中する社員もいる。音楽が流れるリラックスした空間も、陽の光が差し込む窓際も、すべては社員の「気分」と「タスク」に委ねられている。「自分の席」という執着を捨て去ったとき、組織に有機的な動きが現れた。目的なく集まる場所ではなく、最高のパフォーマンスを発揮するために「選ばれる場所」へ。オフィスは、アクティブな働き方の起点へと生まれ変わった。

成果
同社の働き方改革による具体的成果は、様々な分野に及んでいる。
・採用に関する効果とメリット
応募者・入社者への強力なアピールの一つとなっている。
リモートワークをフル活用できる環境が、採用における「一番大きなメリット」として機能している。面接時にもこの制度が話題に上ることが多いという。そのため、人材獲得の競争力が大きく向上。給与面での競合が激しい出版やIT分野においても、テレワーク環境などの「新しい働き方」がプラスに働き、優秀な人材への訴求力となっている。
・ 離職防止への貢献
「これほどリモートワークを使える会社は他にそうそうない」と社員が実感しており、離職を検討していた社員が留まる一因になるなど、心理的な引き留め効果が働き、離職防止にもつながっている。また、再入社制度では、退職者が戻ってこられる仕組みを「新しい働き方」のプロジェクトの中で改めて定義し、実際に復職が発生する好循環が生まれている。
・残業の削減と生産性の向上
残業時間の25%削減を達成。フレックスタイム制により働くスタッフの残業時間が、平均40時間から30時間程度へ減少した。また、業務の電子化・DXの加速により、紙ベースだった経理・人事の書類(請求書等)がPDFや電子データに移行し、場所を選ばない働き方を促進する要因となっている。通勤コスト(時間・心理)の解消の面でも、往復2〜5時間かかっていた通勤時間の無駄がなくなり、社員の身体的・精神的負担が大幅に軽減された。
こだわり
創業DNAの覚醒。「新しいことを面白がる」という最強の武器
出版業界のステレオタイプは、インプレスには通用しない。同社の根底には、創業者・塚本慶一郎氏から受け継がれた「誰もやっていないことを、最初にやる」という好奇心が流れている。
このDNAは、紙にこだわりを持つベテラン編集者の中にも、デジタルネイティブの若手の中にも等しく存在する。DXの荒波に対し、現場から「元のやり方に戻せ」という後ろ向きな声は、聞こえてこなかった。むしろ、現場が主体となって課題解決に取り組み、効率的な手法を編み出していく。この「変化を面白がる文化」こそが、どんな最先端のITツールよりも強力な変革のエンジンとして機能しているのだ。
インプレスグループは、社員の幸せを最大化するための投資を、決して緩めない。創業者から受け継いだDNAを未来に向けて改革していく。伝統と革新の融合。社員の「ハピネス」を経済価値に変えるという考え方は、どのような業種・業態の企業にも共通する戦略の支柱になるものと強調している。
Advice
人事の到達点は、社員の「ハピネス」を経済価値に変えること
佐々木氏は役職名の「CHO」について、その「H」の意味を「Human Resource & Happiness」としたという。人事を単なる人材管理の装置とは見なさない。社員の「ハピネス(幸せ)」を経営のセンターピンに置くという、不退転の決意だ。
掲げるビジョンは「Selectable Work Life」という概念。 どこで働くか。いつ働くか。どう貢献するか。その選択権を完全に社員に返還する。「私は毎日会社に来るのが幸せ」「私は遠隔地で自然に囲まれて働くのが幸せ」。人それぞれ異なる「幸福の定義」を認め、それを支える仕組みを実装する。社員が、やりがいを持って生み出すコンテンツには、必ず魂が宿る。その価値が市場を動かし、会社の成長を牽引する。【写真:佐々木氏】■こちらもオススメ!
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