本レポートシリーズは、「一定以上の定着」を見せながらも、「今後に向けた課題とチャレンジ」がよりクリアになりつつある、「テレワークのいま・・・」につき、その状況を、公知資料を基にした分析洞察、並びに、弊協会会員企業等へのインタビューなどから、明らかにしてまいります。
Index
第1回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その1 |
2024.11.29 | |
第2回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その2 |
2025.1.16 |
第1回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その1
第1回は「テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その1」として、コロナ禍により、業務の在り方が変容してきたなか、より効率よきサービス提供にチャレンジする変化を、お伝えいたします。
柔軟かつ安定的な運営を可能にする、コンタクトセンター業界でのテレワーク拡大
コロナ禍により、在宅ワークの選択肢が広まりました。コールセンター/コンタクトセンター業界も、その例外ではありません。
もともとの電話に加え、メール、SNS、チャットといった、ICT(情報通信技術)全般による非対面でのお客様コミュニケーション窓口を担ってきたコンタクトセンターですが、その運営側の事情としては、運営の安定性を担保しながらも、コストをどう柔軟に最適化していくか、という課題があります。
その課題に対して、以下の2つの方向性で対処できたことが、コンタクトセンター業界におけるテレワークの拡大の背景にあるといえます。
- セキュリティ性の高いクラウドサービスをはじめとした様々なICT技術革新・普及を活用することで、少子化・高齢化などからくる人員確保の困難さを、多様な働き方の担保をしながら、乗り越えられるようになってきたこと。
- コロナ禍により、分散業務を柔軟に安定的に実施できることが、コンタクトセンターにとっての必要要素と改めて見直されてきたこと。
テレワーク時代に一層大切な「気軽な、安心できる、コミュニケーション」
とはいえ、非対面でお客様に向き合うコンタクトセンター従事者にとって、メンタル面の維持管理は業務に安定的に臨むうえで、大切です。特に、在宅ワークで臨む場合は、殊更です。
その意味では「気軽な、安心できる、コミュニケーション」を取り続けられる工夫が大切になってきます。そうした工夫は、仕事として向き合うお客様にとっても、プラスの効用をもたらすものです。
センターで従事していても、在宅で従事していても、業務環境やセキュリティ、またお客様・同僚とのコミュニケーションを変わらず遂行できる・・・これが、テレワーク時代のコンタクトセンターにおいて、1つの理想形であると思います。
今後も様々な工夫が進んでいくものと思われます。
地方拠点にとってますます有利な、コンタクトセンター業界でのテレワーク
人材の確保しやすさ、そして働きやすさへの工夫もあいまって、三大都市圏以外でのコンタクトセンター数は着実に増加しています。リックテレコム社「コールセンタージャパン」編集部の2024年夏の調べでは、コールセンター拠点数が20を超える道県は、9つにのぼっています。
仮に、コンタクトセンターの募集賃金水準が、全国で一律に近い形をとることができるならば、地方拠点においては、地場賃金に比べて相対的に応募者が集まりやすく、結果的に、高スキルの方にまとまって従事いただける可能性が高まります。
更に、在宅ワークを組み合わせることで、家庭の事情や、自営・兼業等の状況をも鑑みた形で、そうした高スキル人材の方に対しても、柔軟な働き方を担保することが可能です。
次回は、そうしたコンタクトセンターの地方拠点をめぐる状況につき、実際に当会会員企業にお話を伺ってみたいと思います。
第2回 テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その2
第2回は「テレワーク時代のコンタクトセンターの挑戦 その2」として、当会会員企業である、富士通コミュニケーションサービス様の松山サポートセンターでの取り組み模様を、お伝えいたします。
ご対応いただいた松山センターの皆様 写真左より 田中 勝也 さま (シニアマネージャー) 真嶋 優 さま (シニアマネージャー) 越智 繭子 さま |
時代に機敏に対応しながら、テレワークを大胆活用して、安定した運営を実施
富士通コミュニケーションサービス松山サポートセンター(以下MSC)は、松山市内の最も中心部、いよてつ松山市駅の至近に位置します。2003年の開設以来20年を越え、コロナ禍を乗り切り、安定した運営を実現しています。現在の従業員は360名あまり。女性比率はうち3/4、そして完全テレワーク比率も1/3以上と、働きやすいワークプレイスを実現されています。
MSCの部門の一つでは、コロナ禍以前から、テレワークへの取り組みを進めてきていました。紙ベースでの業務資料のやり取りが多かったところから、徐々にデータ化を進め、お客様要望や家庭事情等でどうしてもテレワークが困難な方々を除き、全員がテレワークをできる体制を整えてきました。
MSC開設当初より、様々な部門が加わり、その入れ替わりも生じてくるなか、稼働量に合わせたオフィススペースの柔軟な調整も実施してきました。さらに、テレワークの浸透によりオフィス内の座席数を適切に確保調節することができるようになり、オフィススペースの有効活用を一層進めることができる状態となっています。
広々とした共用スペース。憩いそしてイベントの場。天井が高く開放感がある。
テレワークの活用拡大による、働く方々のメリット
~安心して働けるワーク・ライフ・バランスの確保~
松山市は人口約50万人。朝晩の交通渋滞も激しく、また電車・バス等の運行スケジュールも限られることから、通勤は、MSCで働く方々にとっても少なからぬ課題でした。さらに、小さなお子様を抱えて働かれる方々にとっては、保育園の送り迎えの時間確保も、大きな課題でした。
しかしながら、テレワークの浸透により、自宅近くに保育園を確保されている方々にとっては、通勤時間を削減できたぶん、より多くの時間を働くことができるようになりました。また、お昼休みなどの隙間時間を利用して、買い物や洗濯、夕食準備などの家事も進められるようになり、時間の有効活用が進むようになりました。さらに、24時間サポートが必要な業務が生じた場合においても、シフト制にて、自宅で、安心して働けるようになりました。
これらの結果、MSCにおいては、正社員・準社員・無期契約社員といった、長期雇用形態で働かれている方々が8割を超えるに至っています。さらに10年以上勤務されている方も半数以上、そして離職率も極めて低率、と、安心して働ける環境が整っている状況がうかがえます。
MSC玄関。クリスマス気分が華やぎ、愛媛県のミカンの葉の色での内装がポップさを演出。
テレワーク中心での柔軟なコンタクトセンター運営を可能とした秘訣
現在MSCでは9つの業務部門を擁します。テレワークがこれだけ浸透する中、仕事のやり方が複雑になっているのではないか、とも想像していましたが、そこは様々な工夫でカバーされていました。
まず、TeamsやViva Engageといった、オンラインでのコミュニケーションツールをふんだんに活用し、いわゆる孤立感といったものを一切なくす工夫を進めてきました。さまざまな周知にも蚊通用し、また、困ったときは気軽に相談できる、チームのほかのメンバーが何をやっているかすぐにわかる、そうした個々のメンバーの心理的な安心感を担保することに、工夫を進めてきました。
また、部門リーダー間の密なコミュニケーションも見逃せないところです。業務上繁忙期・閑散期の生じやすいコンタクトセンターですが、稼働の柔軟な融通を前以てリーダー間で相談し、気心知れたメンバーもそれに対応できる、そうした雰囲気を醸成してきました。
さらに、お客様が安心できる、セキュアな業務基盤を築き上げてきたことも大きいです。各種ネットワーク・システム・ツールを活用した二重三重のセキュリティで、ゼロトラスト時代にも対応した業務環境を築いています。
今回、松山センターを取材させていただいたのは、当協会のテレワーク川柳が1つのご縁となりました。センター内で川柳大会を開催されるなど、地元・愛媛ならではの良さを、ふんだんにイベントそのほかのセンター運営に取り込み、テレワークを上手に活用しながら、センターとしてのチームアップを図っていく、そうした細やかな工夫が、印象に残りました。
次回以降は、コンタクトセンターに加えて、自治体戦略についても、テレワーク・ニューノーマルの状況を探ってまいりたいと思います。
(つづく)
著者:主席研究員 岩田祐一 NTT持株/東日本/コミュニケーションズ、並びに、情報通信総合研究所、NTT Capital UK、NTT Europe、中曽根平和研究所、NTTセキュリティ・ジャパンなどを経て現職。専門はデジタル時代のセキュアな発展戦略及びリスク対応戦略全般。 |