社団法人 日本テレワーク協会

3時間以上の時短は序章。バックオフィスDXを「攻めの武器」に変え、顧客満足度と案件増につなぐ特許事務所の挑戦

「DXは大企業のもの」「専門ツールは高価で手が出ない…」

そんな風に、変革への一歩をためらってはいませんか?実は、身近にある無料や安価なツールを組み合わせるだけで、日々の業務は効率化し、その先にある“攻めの経営”への扉が開かれます。今回は、代表自らが知恵と工夫でバックオフィス業務のDXを成し遂げ、それを事業成長につなぐ、小規模専門家事務所の力強い事例をご紹介します。

取組企業情報

企業名: かちどき特許事務所   

業界:その他サービス業(弁理士)
事業概要:特許・意匠・商標の相談・出願代理業務、知的財産に関するコンサルティングなど

取組前の課題(ビフォー):見えない時間に奪われる「もったいなさ」

横浜と静岡に事務所を構える、かちどき特許事務所。代表の髙橋幸夫氏は、以前からDXで業務効率化の必要性を感じていました。しかし、DX関連の勉強会に参加しても、紹介されるのは従業員10名以上の企業を対象としたものがほとんど。「自社に取り込めるものは全く発見できず、途方に暮れていた」と当時を振り返ります。

 

具体的には、以下のような課題が日常業務を圧迫していました。

 

【面倒な交通費精算】

事務所のパソコンでしか入力できず、月に約1.5時間も費やしていました。

 

【非効率な記帳業務】

銀行の入出金データを会計ソフトへ自動で取り込むために、毎月5千円程度費やすのはもったいないと感じていました。そのため、銀行で通帳を記帳し、会計ソフトへ一件ずつ手入力する作業に、月約1時間を要していました。

 

【時間のかかる営業準備】

顧客への提案に不可欠な知的財産権のリスト作成に、都度30分から2時間もの時間がかかり、本来注力すべきコア業務の時間を奪っていました。

 

【間違えやすい=時間のかかる請求書作成】

ワードの表にほぼ手入力していたため、請求書を1件作成するのに15分から20分かかっていました。

 

かちどき特許事務所イメージ

 

これらの「守り」の業務に追われることで、顧客への価値提供という「攻め」の時間創出が難しい、もどかしい状況にあったのです。

 

取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):コストをかけず「守り」を固め、「攻め」へ転換

髙橋氏の挑戦は、「手入力の作業を自動化できれば、時間が短縮できるはずだ」というシンプルな発想から始まりました。静岡市のDX支援事業における専門家からの助言も参考に、高価なシステムに頼るのではなく、身近なツールを徹底的に活用する道を選んだのです。

 

1.「守り」の業務を徹底的に効率化

【交通費精算のモバイル化】

スマートフォンの乗換案内アプリを導入。これにより、移動中の電車内といったスキマ時間での精算が可能になり、事務所に戻ってからまとめて作業する必要がなくなりました。

 

【記帳業務の自動化】

銀行が提供する「無料」のAPI連携機能を活用。これまで手入力していた銀行の入出金データを会計ソフトに自動で取り込む仕組みを構築しました。

 

記帳手入力の手間ゼロ

[銀行API連携によりデータを会計ソフトに自動取り込み※]

 

【請求書の自動計算】

ワードの表に計算式を入力して自動計算。間違いがなく、確認の手間も減り、請求書作成にかかる時間が半減しました。

 

[計算式で自動計算]

 

2.「攻め」のDXを加速

【営業ツールの作成を半自動化】

これまで手作業に頼っていた営業先の知的財産権リスト作成。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)から関連データをCSV形式で出力し、Excelで効率的に加工する仕組みを構築。これにより、リスト作成時間を大幅に短縮しました。

 

導入後の成果・効果 (アフター):時間創出が顧客満足度と案件増につながった

地道な改善の積み重ねは、目に見える成果となって現れました。

定量的成果
✔ バックオフィス業務全体で、月約3時間の作業時間を削減することに成功。

✔ 特に時間のかかっていた知的財産権リスト作成は、従来の約4分の1の時間(最長2時間を最大30分削減)を削減できるようになりました。

定性的成果
✔ 最も大きな成果は、効率化で生まれた時間を、顧客への提案やコミュニケーションといった付加価値の高い活動に振り向けられる土台ができたことです。その結果として、顧客満足度の向上を目指します。

✔ さらに、新規案件の獲得件数を増加させ、事業の成長を目指します。

髙橋先生
[代表の髙橋氏]

成功のポイント・工夫した点:小規模事務所だからこその「割り切り」と「自分ごと」化

なぜ、かちどき特許事務所のDXは成功したのでしょうか。髙橋氏はその秘訣をこう語ります。

 

【身の丈に合ったツール選定】

「個人事業主にとって、多機能で高コストなツールは不要です。無料で使える、もしくは安価なDXツールを、費用対効果をよく考えて選ぶことが重要。」。この明確な「割り切り」が、コストを抑えながら最大の効果を生むことに繋がりました。

 

【代表自らが"DX担当"に】

外部の専門家に丸投げするのではなく、代表自らが「やり方等が記載された資料がなくても、インターネットやChatGPTで調べまくった」こと。この試行錯誤のプロセス自体がノウハウの蓄積となり、最適な解決策を見つけ出す原動力となりました。

 

【「守りから攻めへ」の明確な目的意識】

単に楽をするための効率化ではなく、「創出した時間で営業を強化し、顧客満足度を高める」という明確な目的があったからこそ、一連の取り組みが大きな実を結んだのです。

今後の課題、取り組み

髙橋氏の挑戦はまだ終わりません。今後は、会計ソフトへの請求書・領収書の自動入力といった経理業務のさらなる省力化や、特許庁APIの活用など、新たなデジタル技術を駆使して、より付加価値の高いサービスを顧客に提供していくことを目指しています。

 

 

あなたの会社にも、当たり前だと思って続けている非効率な「手作業」はありませんか?今回の事例をヒントに、まずは身近な無料ツールで効率化できる業務がないか、探してみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、事業を大きく飛躍させるきっかけになるかもしれません。

 

※出典:静岡市「令和6年度中小企業等DX 支援事業 DXモデル事例集」

関連情報・ナビゲーション

かちどき特許事務所HP

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