社団法人 日本テレワーク協会

市民の「大切な時間」を取り戻す横浜市が挑む、子育てDXAIが拓く行政の未来

導入団体情報

団体名: 神奈川県横浜市       横浜市画像1
業界:公務・公共

事業概要:

377万人の人口を抱える日本最大の基礎自治体。戸籍や税、子育て、福祉、消防など、市民の暮らしに密着した幅広い行政サービスを提供している。

導入前の課題(ビフォー):迫りくる「2040年問題」と市民のリアルな声

「あなたの組織では、目前の課題だけでなく、15年後の未来を見据えた変革に着手できていますか?」

日本最大の基礎自治体である横浜市が対峙しているのは、決して他人事ではない、日本共通の大きな課題です。それは、少子化の加速による生産年齢人口の減少と、それに伴う税収の減少が見込まれ、一方で高齢者が増加する「2040年問題」行政サービスの需要が増え続ける一方で、担い手と財源は先細りしていく―。このままでは、市民サービスの水準を維持するのすら困難になるという危機感があります。

 

現状でも、より身近な課題も山積しています。特に子育て世帯からは、

 

  • 「子どもを連れて、窓口で長時間待つのは本当に大変」
  • 「仕事を休まないと区役所に行けない」
  • 「子育て支援の情報があちこちに散らばっていて、自分に必要なものを探すだけで一苦労」

などの、切実な声が数多く寄せられていました。

行政内部に目を向ければ、旧来の業務プロセスで職員の事務負担は一向に減らず、市民と向き合うための時間を奪っていました。この大きな構造課題と、市民一人ひとりのリアルな悩みの両方を解決すること。それが横浜市のDXの大きな目的の一つでした。

取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):「時間をお返しします」を合言葉に

横浜市は「横浜DX戦略」で、一つの明確なコンセプトを打ち出しました。それは「横浜のDXは、みなさんに大切な『時間』をお返しします」というメッセージです。このモットーのもと、市民と職員、双方の課題を解決する多角的なDXがスタートしました。
1. 市民の声から生まれた、子育て応援アプリ「パマトコ」

市民の「困りごと」に徹底的に向き合い、開発されたのが子育て応援アプリ「パマトコ」です。これまでバラバラだった情報を一つのアプリに集約し、以下の機能を実現しました。

オンライン申請: 児童手当や医療費助成など、様々な手続きをスマホで完結。
電子母子手帳: 予防接種のスケジュール管理や子どもの成長記録をデジタルで管理。

情報検索・予約: 地域の支援拠点やイベント情報を簡単に検索し、予約まで可能に。

 

 

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[「パマトコ」機能紹介]

2. 未来を見据えた、行政経営プラットフォームの刷新

市民サービスの裏側で、行政経営の基盤も大きく変革。ローコードプラットフォームを活用した新たな財務会計システムを構築しました。これにより、予算編成のプロセスが各課から財政局までエンドツーエンドでシステム化され、入力手間の解消とデータに基づいた政策評価(EBPM)が加速しました。

さらに、新たな人事システムの導入により、15年後を見据えた戦略的な人材育成・配置計画の立案も視野に入れています。

3. AIとの協働へ

さらに未来を見据え、横浜市はAIの活用にも乗り出しています。特に、職員に代わってAIが定型的な業務を自律的に実行するAIエージェントに期待しています。例えば、マニュアルを読み込ませるだけで、AIが災害時の対応フローを自動で描いたり、市民との対話形式で申請書を自動作成するなど、大きな可能性が示されています。

 

 

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[AIエージェントによる申請書作成デモ]

 

    期待される成果・効果 (アフター):市民と職員、双方に生まれる「ゆとり」

    横浜市の挑戦は、着実に成果となって表れつつあります。

     

    【市民の負担を大幅軽減】

    子育て応援アプリ「パマトコ」は、多くの市民に受け入れられ、すでに登録利用者数は9万人以上、オンラインでの申請件数は15万件を突破しました(取材時点)。「区役所に行かなくても済むようになった」という声は、まさしく市民に「時間」を返せた証です。

     

    【大幅な業務効率化】

    生成AIを活用した実証実験では、これまで職員が長時間かけていた研修アンケートの分析作業において、作業時間を82%も削減するという結果が出ました。

     

    【創造的な働き方へのシフト】

    こうしたデジタル化によって生まれた時間は、職員が単純作業から解放され、政策立案や市民へのより丁寧な対応といった、本来注力すべき創造的な業務に向かうための貴重な原資となります。

     

    成功のポイント・工夫した点:未来からの逆算と徹底した市民起点

    なぜ横浜市のDXは進んでいるのでしょうか。その秘訣は、以下の点にあるでしょう。

    【共感を呼ぶビジョンの力】

    「大切な時間をお返しします」という、誰もが「自分ごと」として捉えられるシンプルで強いコンセプトが、市民と職員を巻き込む大きな求心力となりました。

     

    【徹底した市民目線のサービス設計】

    「パマトコ」は、行政の都合だけではなく、子育て中の親が本当に困っていることは何か、という徹底した調査・ヒアリングから生まれました。

    この「ユーザーファースト」の姿勢が、高い利用率に繋がっています。

     

    【未来からの逆算思考】

    目の前の課題解決に留まらず、「2040年にどうあるべきか」という未来の視点から、今打つべき手として財務や人事といった行政の根幹システムから変革に着手した、その戦略性の高さが際立っています。

     

    【新たなツールのリサーチと導入】

    AIやローコードのような新しいデジタルツールも幅広くリサーチして、効果や特徴をしっかり検証。そこで得られた知見を導入に活かして、現場や全庁的な利用拡大へと繋げています。

     

    横浜市福田次郎さん

    [横浜市 最高情報統括責任者(CIO)補佐監 福田次郎氏]

    横浜市 最高情報統括責任者(CIO)補佐監 福田次郎氏は、「AIが正確な業務を遂行するには、AIが参照できる正確なナレッジセットを構築することが重要」と語り、来るAIの活用時代に向けた知識情報の基盤づくりの重要性を強調します。

    今後の課題、取り組み

    市民と職員のためのDXを力強く推進する横浜市ですが、挑戦はまだ道半ばです。最大のテーマは、AIを活用した業務の自動化です。AIが自律的かつ正確に業務を行うためには、その判断の拠り所となる、信頼性の高い「ナレッジセット(業務手順書や各種ルールなど)」を整備し、常に最新の状態に保つ仕組みが不可欠です。

    また、自動化で生まれた職員の時間を、いかにして新たな市民サービスの創出や政策の質の向上に繋げていくか。「市民目線で行政サービスをデザインする」という、職員の意識改革やリスキリングも重要なテーマとなります。

    福田氏は、この挑戦で得た知見や開発したシステム設計を、他の自治体とも共有していくことを期待しています。一つの基礎自治体の変革が、日本の行政全体の働き方改革とサービス向上を牽引する。そんな大きな未来が期待されます。

     

     

     

    この記事を読んで、自社の「働き方DX」について考え始めた方も多いのではないでしょうか。横浜市のように「未来から逆算して今を変える」視点は、あらゆる組織にとって重要なヒントとなるはずです。あなたの組織では、従業員や顧客の「大切な時間」を、どうすればもっと増やせるでしょうか?

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