「誰一人取り残さないDX」が実現した残業ゼロと売上アップの軌跡
導入企業情報
企業名:山伝製紙株式会社 事業概要:明治初年度創業。お酒のラベルや壁紙、パッケージ、文具などに使われる 越前和紙の伝統技法を活かした機械抄き和紙や多様な機能性和紙の企画・製造を行う。
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導入前の課題(ビフォー)
伝統的な和紙製造の現場では、長年にわたり、以下のような課題が常態化していました。
【紙の伝票に依存した非効率な工程管理】
発注書が製品と共に各工程を回るため、事務所から現場へ、工程から工程へと、物理的に受け渡しする必要があった。
【リアルタイムな進捗状況の不透明性】
各工程の職人は「次にいつ自分の仕事が来るか」「今、製品がどの工程にあるか」を正確に把握できず、手待ち時間が発生しやすかった。
【「探し回る」という無駄な時間の発生】
広大な工場内で、次に作業すべき製品やその状態を確認するために歩き回る時間が大きなロスとなっていた。
【限定的な情報共有】
部門間の情報共有は週に一度の責任者会議が中心で、日々の細かなトラブルや進捗の遅れに迅速に対応することが難しかった。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション)
これらの課題を解決するため、代表の山口氏が主導し、現場の職人を巻き込んだ独自のDX施策がスタートしました。
【kintoneと独自システムによる工程の「見える化」】
事務所で受けた注文をkintoneに入力すると、自動的に自社開発の工程管理システムにデータが反映。各工程にタブレットを設置し、作業者は「開始」と「完了」ボタンを押すだけ、リアルタイムに進捗状況を全社で共有できる仕組みを構築しました。これにより、紙の伝票は完全に廃止されました。
[製造伝票情報]
[進捗状況の見える化]
【全従業員が使える、徹底的に「やさしい」UI/UX】
導入成功の最大の鍵は、デジタルに不慣れな職人でも使えることを絶対条件としたことです。開発チームに加わってもらい、ボタンの大きさや色、文字のサイズに至るまで、徹底的に意見をヒアリング。週に一度は現場からの改善要望を即座にシステムに反映し、「自分たちの声でシステムが進化している」という実感と信頼感を醸成しました。
【データに基づく品質への「意識改革」】
かつて「季節や天候のせいで品質が落ちるのは仕方ない」という諦めがあった現場。その常識を覆すため、センサー(MESH)とkintoneを連携させ、工場内の温湿度と製品の歩留まり率の相関データを1年間取り続けました。結果的に明確な相関関係は認められませんでしたが、このデータ収集の取り組み自体が「どうすればもっと品質が良くなるか」を全員で考えるきっかけとなり、職人たちの品質に対する意識を変えることに成功したのです。
[温度・湿度データ]
導入後の成果・効果 (アフター)
地道な改善を続けた結果、様々な成果が現れました。
【生産性向上】
従業員が5名減ったにもかかわらず、会社全体の売上は向上。
【労働時間削減】
探し回る無駄がなくなる等、業務が効率化され、時間外労働は、ほぼゼロに。従業員は毎日定時から15分後には退社できるようになった。
【働きがい・働きやすさ】
✔ リアルタイムな在庫状況をタブレットで共有可能になり、現場が主体的に生産計画を判断でき、結果として棚卸資産も大幅に削減されました。
✔ 有給休暇の平均取得日数は年間12日を達成しました。
✔ 若手社員が高齢の職人にタブレット操作を教えるなど、世代を超えた新たなコミュニケーションが生まれました。
【顧客満足度向上】
工程管理の精度が上がり、納期遅延がなくなったことで、顧客からの信頼も向上しました。
成功のポイント・工夫した点
山伝製紙のDXはなぜ成功したのか。その秘訣は以下の点に集約されます。
【「誰一人取り残さない」という強い意志】
最もITに不慣れな人を基準にシステムを設計したことで、結果的に全員にとってシンプルで分かりやすいツールが完成しました。
【現場の声を即座に反映するアジャイル開発】
週に一度のアップデートで「自分たちの意見が聞き入れられている」という信頼感を醸成し、従業員の当事者意識を高めました。
【経営者のリーダーシップと外部の知見の活用】
経営者自らがDXを自分事として学び、推進する一方で、福井県のDX相談センターといった外部専門家の力も的確に借りる判断をしました。
【完璧を求めず、並行運用で徐々に移行】
導入当初の半年間は、従来のアナログな手法とデジタルを並行運用。従業員の負担にはなりましたが、焦らず着実に定着を進めました。
今後の課題、取り組み
製造現場での成功を足掛かりに、山伝製紙の挑戦は次のステージに進んでいます。現在は、タイムカードなどアナログな管理が残る事務部門のDX化を検討中。今度は事務担当の従業員が主体となって、kintoneと連携できる勤怠管理アプリなどをリサーチしており、現場から始まったDXの文化が全社へと広がりつつあります。
今回の山伝製紙様の事例は、DXが単なるツールの導入ではなく、働く人々の意識や文化、そして「働きがい」そのものを変革する力を持つことを示してくれました。あなたの会社では、DXによって「誰」の「どんな時間」を価値あるものに変えたいですか?
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