アナログ文化からの脱却!「人づくり」を軸にしたDXで、ベテランと若手が共に成長する建設業の未来を拓く
「うちの会社も、もしかしたら…?」
「言った言わない」の伝言ゲームで現場が混乱する。日報や申請手続きが煩雑で、本来の業務に集中できない。ベテランの知恵や技術が、なかなか若手に継承されない――。
これらは多くの企業が抱える悩みではないでしょうか。特に、長年の慣習が根付く業界では、「変革」への一歩を踏み出すことに躊躇してしまうかもしれません。しかし、浦田空調工業株式会社の挑戦は、そんな悩みを抱える企業にとって、大きな勇気と具体的なヒントを与えてくれます。
アナログなコミュニケーションが主流だった同社が、いかにしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を成し遂げ、社員の働きがいと企業の成長エンジンを手に入れたのか。その軌跡を追います。
導入企業情報
企業名:浦田空調工業株式会社 千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県を中心に、大型空調設備に使われるダクトの製造から施工までを一貫して手掛ける。創業約50年の歴史を持ち、オーダーメイドのダクト製作を強みとする。
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導入前の課題(ビフォー): 「変わらなければ」
ー見えない情報とコミュニケーションの壁
「60年以上続く会社で、年輩の社員が多いこともあり、業務上のコミュニケーション方法が口頭、電話、FAXなどのアナログのままでした」と語るのは、同社のDXを牽引する専務取締役の浦田裕晶氏。具体的には、以下のような課題が山積していました。
【コミュニケーションのブラックボックス化】
口頭での指示や情報伝達が多く、履歴が残らないため、「言った言わない」のトラブルが頻発していました。これにより、情報の共有漏れや認識の齟齬が生じ、無駄な時間と労力を費やしていました。
【非効率なアナログ業務】
書類ベースの申請業務や案件管理は手間が多く、社員の負担増につながっていました。特に、現場作業と並行して行う事務作業の効率化が求められていました。
【技術継承の停滞】
ベテラン社員の持つ高い技術やノウハウが、若手へスムーズに継承されにくい構造がありました。
【時代に合わない働き方と採用難】
アナログ中心の業務スタイルが、若手人材にとって魅力的に映らず、採用活動にも影響が出始めていました。
浦田氏は、以前勤めていた会社で営業支援ソフトやビジネスチャットツールを活用し、業務効率を上げていた経験から、「当社に適したデジタルツールを導入し、まずは『コミュニケーションの見える化』を実現したい」と強く考えていました。
それは単なる効率化に留まらず、企業理念でもある「人づくり」ー社員が働きがいを感じ、成長できる環境を作るための、未来への投資でもありました。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):小さな一歩から始まった、全社を巻き込むデジタルシフト
「最初から本格的なデジタルツールを導入しても使いこなすのが難しいかもしれない」。 そう考えた浦田氏は、アドバイザーにも相談し、自社の状況と目指す姿に最適なツールを選定。 導入したのは、主に以下の2つのツールです。
【ビジネスチャットツール「LINE WORKS」の導入】
これまで電話やFAX、口頭で行っていた業務連絡をLINE WORKSに置き換えました。グループチャットなどを活用し、案件ごとの情報共有や指示系統の明確化を図ることで、コミュニケーション履歴が確実に残るようになりました。
[現場との情報連携改善]
【業務アプリ作成ツール「kintone」の活用】
社員が当事者意識を持って取り組め、かつ効果を実感しやすいものからスモールステップで導入を進めました。
✔ まずは有給休暇の申請システムを構築しました。
✔ 次に、部材等の注文システムを導入。これにより、口頭での曖昧な指示によるトラブルを減らし、発注履歴を明確に残すことでヒューマンエラーを削減しました。
✔ さらに、案件の進捗管理や日報管理もkintoneでデジタル化しました。
【技術継承のための動画共有システム】
ベテラン社員の優れた製造技術を動画に収め、kintone上でいつでも誰でも閲覧できるようにするシステムを構築中です。これにより、若手社員の教育や技術の標準化を目指しています。
導入後の成果・効果 (アフター):数字と意識の変化が示す、DXの確かな手応え
これらの地道な取り組みは、着実に成果となって現れました。
【コミュニケーションエラーの大幅削減】
LINE WORKSの導入により、情報伝達のミスが顕著に減少しました。以前は月に2~3件発生していた情報伝達ミスが、感覚的には四半期に1回程度にまで減少し、「言った言わない」の不毛な議論がなくなり、スムーズな連携が実現しました。
【業務効率化と生産性向上】
kintoneによる各種申請や報告業務のデジタル化で、手間と時間が大幅に削減され、社員は本来のコア業務に集中できるようになりました。これにより、社員の残業時間も減少しています。
【働きがい・働きやすさの向上】
有給休暇が申請しやすくなり、取得率も向上したことで、社員が職場環境の改善を実感しています。また、デジタルツールの活用が進むにつれ、社員からは「使ってみると、意外に簡単だね」といったポジティブな声が聞かれるようになりました。
【採用市場での競争力強化】
時代に即した業務スタイルへの変革は、採用面でも良い影響をもたらしており、「若手社員の採用にも好影響が現れ始めている」と浦田氏は語ります。
【顧客満足度の向上】
注文方法をシステム化し、簡易化したことで、顧客からも「楽で助かるよ」と好評を得ています。図面の余白に手書きしたものを写真で送るだけでも注文可能にするなど、顧客の利便性を追求した柔軟な対応もDXが可能にしました。
成功のポイント・工夫した点:「やらされるDX」から「みんなでやるDX」へ
浦田空調工業のDX成功の裏には、一朝一夕にはいかない努力と工夫がありました。
[若手社員がDXに積極参加]
【「何のためか」を徹底的に伝え、粘り強く説得】
長年慣れ親しんだやり方を変えることへの抵抗は、特にベテラン社員の中に少なからずありました。
浦田氏は、「絶対に会社にとってプラスになる」という確信のもと、過去の失敗事例などを引き合いに出しながら、「このシステムを導入すれば、こうしたトラブルは解消できます」と、導入のメリットを具体的に、そして根気強く説明し続けました。
【スモールステップでの導入と成功体験の積み重ね】
最初から大きな変革を求めるのではなく、まずは有給休暇申請システムなど、社員にとって身近で効果を実感しやすいところからデジタル化に着手しました。
【若手社員の積極的な活用と教育体制】
【経営者の強いリーダーシップとビジョンの共有】
浦田氏自身がDXの必要性を深く理解し、そのビジョンを社員に明確に示し続けたことが、変革を推進する上での大きな原動力となりました。
【現場の声を活かした柔軟なカスタマイズ】
kintoneのようなカスタマイズ性の高いツールを選定したことで、自社の業務フローに合わせてシステムを構築・改善していくことができました。
「今ではすべての社員がデジタルツールを使うようになり、『使ってみると、意外に簡単だね。』という声も聞こえるようになりました」と浦田氏が語るように、現場の意識は確実に変わりました。
今後の課題、取り組み
浦田空調工業のDXへの挑戦はまだ道半ばです。
【さらなる業務効率化とAI・RPAの活用検討】
簡単な事務作業をAIやRPAに任せることで、少数精鋭でも高いパフォーマンスを発揮できる体制を目指しています。具体的には、見積もり作成や契約管理といった業務へのAI活用も視野に入れています。
【社員による自主的なシステム改善の促進】
「いずれは、わたし以外の社員が業務効率の改善につながるシステムを自主的に作成するようなところまでいけたらいいなと思っています」と浦田氏は語っています。社員一人ひとりがDXの担い手となる組織文化の醸成を目指しています。
【自社開発ツールの外販という新たな挑戦】
自社で培ったノウハウを活かし、「我々の業界にピンポイントで刺さるようなニッチなツールを開発して、それを販売するといったことも考えています」。これは、自社の収益向上だけでなく、業界全体のデジタル化と効率化に貢献したいという強い思いの表れです。
【テレワークの本格導入と多様な働き方への対応】
人材不足が課題となる中、現場で行っている打ち合わせなどをリモートで行うなど、テレワークの本格導入も検討しています。より柔軟な働き方を実現し、多様な人材が活躍できる環境を整備していきます。
【海外への事業展開も視野に】
国内市場の縮小を見据え、将来的には海外への事業展開も視野に入れています。
そのためには、DXをさらに進化させ、革新的なシステムを構築していく必要があると考えています。
今回の浦田空調工業株式会社の取り組みは、DXが単なる業務効率化のツールではなく、社員の働きがいを高め、企業の持続的成長を支える強力なドライバーであることを示しています。
特に、伝統的な産業においても、トップの強い意志と現場を巻き込む丁寧な進め方によって、大きな変革が可能になることを教えてくれます。あなたの会社でも、まずは身近な課題の解決からDXの一歩を踏み出してみませんか?
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