残業半減と "家族の笑顔" を両立。介護DXで『利他の心』を体現する挑戦
「新しいシステムの導入が、かえって現場の負担を増やしてしまった…」多くの企業が抱えるDXの悩みではないでしょうか。
毎日時間に追われる中で、変化を求められてもすぐには順応できないのが現場の本音かもしれません。しかし、もしその変革が、職員の負担を減らし、サービスの受け手であるお客様とその家族の笑顔を増やすとしたら?山口県防府市で、まさにそんな理想的な働き方DXを実現した社会福祉法人周陽福祉会。その成功の裏には、徹底した「現場主義」と、テクノロジーで「利他の心」を追求する確固たる信念がありました。
導入団体情報
団体名: 社会福祉法人 周陽福祉会 岸津苑 1980年の創立以来、「利他の心」を経営理念に、特別養護老人ホーム、地域包括支援センター、障がい者グループホームなど、地域のニーズに応える多様な福祉サービスを展開。 幅広い年齢層の職員が、利用者一人ひとりに寄り添い、笑顔あふれる場を提供しています。 従業員:137名 |
導入前の課題(ビフォー)
DX導入以前、周陽福祉会では多くの介護現場が直面する共通の課題を抱えていました。
【非効率な手書き記録】
介護記録はすべて手書き。ノートへの一次記録、ファイルへの転記、さらに個人ごとの記録への再転記と、手間と時間がかかっていました。介護用語には難しい言葉や漢字も多く、人によっては文字が判読しづらいこともあり、正確な情報共有の妨げになることもありました。
【職員間の情報共有の壁】
職員がその場にいなければ利用者の様子は把握できませんでした。組織内のリアルタイムでの情報共有は困難であり、共有するための時間と労力もかかりました。
【夜勤者の心身への負担】
夜間の定期的な巡回は、職員の身体的・精神的な負担が大きく、また、利用者の安眠を妨げてしまう可能性もありました。
【家族とのコミュニケーション不足】
利用者の日々の様子を家族に細かく伝える手段が限られており、特にコロナ禍で面会が制限される中、家族の不安は大きいものでした。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション)
課題解決のため、周陽福祉会は「職員の負担軽減」と「利用者・家族の満足度向上」を両輪で進めるDXに着手しました。
1.スマートフォンによる介護記録システムの導入
10年以上前から記録のデジタル化を模索していた山本常務理事。 既成のパッケージではなく、現場の職員を同行させ関東の導入事例を視察し、実際に使っている職員の声を聞いた上で、利用者本位の思想で開発されたベンチャー企業のシステムを選定しました。 「記録はいつでも、どこでも、誰でも簡単に」との考えから、持ち運びにくいPCやタブレットではなく、全職員がポケットに入れておけるスマートフォンにこだわりました。
[デジタル化を推進する山本常務理事]
2.睡眠見守りセンサー「眠りSCAN」の導入
利用者のベッド下にセンサーを設置し、心拍や呼吸、睡眠状態、室温などをリアルタイムで遠隔モニタリング。 これにより、利用者の睡眠を妨げることなく状態を把握し、必要なタイミングでケアを提供できるようになりました。
3.職員の働きやすさを支える多彩な制度
導入後の成果・効果 (アフター)
これらの取り組みは、定量的・定性的な両面で目覚ましい成果を上げています。
定量的成果
【時間外労働がほぼ半減】
スマートフォン記録システムの導入で、記録にかかる時間が大幅に短縮され、ある施設では時間外労働がほぼ半分になりました。
【手厚い子育て支援】
子育て手当として、子ども1人につき月額10,000円を支給(高校生はさらに6,000円プラス)するなど、経済的な支援も充実させています。
定性的成果
【職員の負担軽減とチームワーク向上】
リアルタイムで情報共有できるため、職員間の連携がスムーズになりました。
眠りSCANの活用で夜勤者の巡回負担も減り、「心身の負担が軽くなった」との声が上がっています。
【家族との絆の深化】
介護記録を画像や動画付きで家族に公開。 「コロナ禍でも様子がよく分かり安心できる」と大変好評でした。家族からの感謝のメッセージが職員のスマートフォンに直接届くこともあり、大きなモチベーション向上に繋がっています。
【従業員満足度の向上】
「休みが取りやすい」「子育てしながらでも安心して働ける」といった声が多く聞かれ、働きがいと働きやすさを両立しています。
[眠りSCANの活用イメージ]
成功のポイント・工夫した点
周陽福祉会のDXはなぜ成功したのか。その秘訣は、単なるツールの導入に終わらない、深い哲学と工夫にありました。
【徹底した「現場主義」と納得感の醸成】
「人は変化を嫌うもの」という前提に立ち、トップダウンで導入を決めるのではなく、職員を他施設の視察に同行させました。実際に使う現場の職員が「これなら自分たちの仕事が楽になる」「利用者のためになる」と “腹に落ちてから” 導入を決断したことが、スムーズな活用に繋がりました。新しいシステムへのプレゼンにも職員を同席させ、現場の声を何よりも尊重しています。
【「利用者本位」を貫くシステム選定】
世の中には経理系のバックヤード業務の効率化を主眼に置いた介護システムも多い中、周陽福祉会が選んだのは、あくまで「利用者に光をあてた介護記録」という思想で開発されたシステムでした。このぶれない軸が、利用者家族とのコミュニケーション活性化という、他にはない価値を生み出しました。
【成功のための投資を惜しまない覚悟】
導入当初、スマートフォンの通信費が想定以上にかさむという問題に直面。しかしそこで後戻りせず、1000万円の自己資金を投じて施設内にWi-Fi環境を整備しました。ツールを「導入して終わり」ではなく、その性能を100%引き出すための環境整備を惜しまなかったことが、成果を得る鍵となりました。
今後の課題、取り組み
「利他の心」の追求に終わりはありません。周陽福祉会は、DXで生み出した時間とデータを活用し、次なるステージを見据えています。
【「自立支援介護」への本格挑戦】
DXによって生まれた時間を、より専門的なケアに注力。データに基づいた科学的介護の理論を学び、利用者が元気になる「自立支援介護」の実現を、今後3年かけて本格的に推進していきます。
【「ノーリフティングケア」の導入】
職員の腰痛予防など、身体的負担をさらに軽減するため、リフトなどを活用して「抱え上げない介護」の導入を計画。まずは入浴介助から着手し、職員がより安全に働ける環境を目指します。
【次世代の連携システム構築】
ナースコールや電話システムも刷新し、外部からの電話を職員のスマホに直接転送するなど、あらゆる情報伝達をシームレスに繋ぐ、未来の施設環境を構築中です。
[山本岸津苑長]
社会福祉法人周陽福祉会の事例は、DXが単なる業務効率化ツールではなく、企業の理念を形にし、関わるすべての人々を幸せにする力を持つことを教えてくれます。あなたの職場では、新しいツールの導入が「やらされ仕事」になっていませんか?現場の職員が「これならやりたい」と心から思える仕組みづくりこそが、DX成功の第一歩なのかもしれません。
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