「言葉の壁を越え、店主の想いを届けたい」― 創業120年超、築地の老舗そば屋がAI動画で挑んだインバウンド対策と顧客体験の革新
「海外からのお客様に、自社の製品やサービスの本当の価値を、余すところなく伝えきれていますか?」「言葉の壁や文化の違いを前に、もどかしい思いをした経験はありませんか?」
インバウンド需要が回復する中、多くの企業が同じような課題に直面しているのではないでしょうか。今回ご紹介するのは、まさにその壁に挑んだ一軒の老舗蕎麦屋の物語。創業1899年(明治32年)の「築地さらしなの里」が、AIの力で言葉の壁を乗り越え、驚くべき成果を上げた働き方DXの事例です。
導入企業情報
![]() 築地さらしなの里4代目店主 |
企業名:株式会社築地さらしなの里 業界:宿泊業・飲食サービス業 1899年(明治32年)創業。麻布永坂「更科堀井」から初めて暖簾分けを許された歴史を持つ、手打ちそばの名店。伝統の味と技を現代に伝え続けている。
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導入前の課題(ビフォー):「伝えたいのに、伝わらない」ジレンマ
築地という場所柄、外国人観光客の来店は年々増加していました。しかし、四代目店主の赤塚 滋行氏は、ある大きな課題を抱えていました。
【言葉の壁という最大の障壁】
店主やスタッフは日本語しか話せず、店の歴史や、毎日丹精込めて打つそばへのこだわりを、海外からのお客様に直接伝えることができませんでした。
【文化の違いによる誤解】
例えば「そばはラーメンとは違う」という、日本人にとっては当たり前のことも、外国人客にはなかなか伝わりません。この微妙なニュアンスを伝えきれず、もどかしさを感じていました。
【情報発信の限界】
写真付きの英語メニューは用意していましたが、それだけでは伝えられる情報に限界がありました。お客様が来店前に参考にするGoogleマップの情報も、自動翻訳だけでは不十分だと感じていました。
[築地さらしなの里 English Menu] |
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):「店主が話す動画」で、想いを直接届ける
そんな中、赤塚 滋行氏が出会ったのが、AI動画翻訳サービス「こんにちハロー」でした。これは、話している人の声や口の動き(リップシンク)をそのままに、自然な多言語動画を生成できる画期的なサービスです。「試しにやってみようかな」その気軽な一歩が、大きな変革の始まりでした。
【スマホ一台で、想いを語る】
撮影は驚くほどシンプルでした。店主の赤塚 滋行氏自らが、スマートフォンの前で店の歴史やそばへのこだわりを、いつも通り日本語で語るだけ。難しい機材も専門知識も不要でした。
【AIと「人」の力で、高品質な翻訳を実現】
撮影された動画は、「こんにちハロー」によって英語や中国語の動画へと変換されました。AIによる翻訳だけでなく、人の手によるチェックが入るため、ネイティブも驚くほど自然で、店主の温かい人柄まで伝わるようなクオリティに仕上がりました。
【お客様の目に触れる場所へ戦略的に配置】
完成した多言語動画は、多くの外国人観光客が来店前にチェックする「Googleマップ」にアップロード。これにより、店の前でスマートフォンを覗き込むお客様に、店主自らが語りかける形で、直接メッセージを届けられるようになったのです。
[こんにちハロー、AI動画翻訳の仕組み]
導入後の成果・効果 (アフター):来店客数1.5倍!数字以上の「伝わる」実感
この小さなDXの試みは、目に見える大きな成果となって現れました。
定量的成果:外国人観光客の来店数が1.5倍に!
動画をGoogleマップに掲載後、海外からのお客様が明らかに増加。その数は、導入前の1.5倍にもなりました。
定性的成果:商品への深い理解と、伝わる実感
最も大きな変化は、お客様の「理解度」でした。「『そばはラーメンではありません』ということが、しっかり伝わっている実感があります」と赤塚 滋行氏は語ります。価格だけでなく、その背景にある歴史やこだわりに価値を感じてくれるお客様が増え、顧客満足度の向上に繋がりました。店主の「想い」が、言葉の壁を越えて確かに届き始めたのです。
成功のポイント・工夫した点
なぜ、築地さらしなの里のDXは成功したのでしょうか。そこには、業種を問わず多くの企業が参考にできる3つのポイントがありました。
【店主自らが「語り部」に。顔の見える情報発信】
今回、最大のコンテンツとなったのは、店主・赤塚 滋行氏自身の「言葉」と「姿」でした。テクノロジーを介しながらも、作り手の顔が見え、その声で直接語りかけられる動画は、どんなパンフレットよりも強い説得力と信頼性を生み出しました。
【「まず試す」勇気。老舗の柔軟なDXマインド】
「ITは苦手」と決めつけるのではなく、「試しにやってみよう」と気軽に一歩を踏み出した柔軟な姿勢が、成功への扉を開きました。伝統を守ることと、新しい技術を取り入れることは、決して矛盾しない。そのことを、さらしなの里の挑戦は証明しています。
【お客様の「見る場所」を捉えた戦略的アプローチ】
作成した動画を、インバウンド客が最も利用するGoogleマップに掲載するという判断が、効果を最大化させました。優れたコンテンツも、見てもらえなければ意味がありません。お客様の行動を理解し、最適な場所に情報を届ける戦略が功を奏しました。
今後の課題、取り組み:老舗のDXを成功に導いた3つの秘訣
今回の成功を礎に、さらしなの里はすで次の一手を見据えています。英語や中国語に加え、韓国語やスペイン語など、さらなる多言語展開を検討。また、店内に設置したQRコードからお客様自身のスマートフォンで動画を見られるようにするなど、来店後の体験価値をさらに高める施策も計画中です。
テクノロジーを活用した「おもてなし」の探求は、まだ始まったばかりです。
今回の事例は、DXが単なる業務効率化やコスト削減のツールではなく、企業の持つ「想い」や「文化」という無形の価値を世界に届け、新たな成長を生み出すための強力な武器であることを教えてくれます。
あなたの会社では、テクノロジーを使って「伝えたい想い」を、どのように世界へ届けますか?
まずは、自社の持つ「本当の価値」とは何か、そしてそれを誰に、どう伝えたいのかを、改めて見つめ直すことから始めてみてはいかがでしょうか。
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