離職率0%の衝撃。エンジニアが「辞めない」会社が実践する、透明性DXとキャリア自律の仕掛け
「優秀な人材ほど、定着しない…」多くの企業経営者や人事担当者が、このようなジレンマに頭を悩ませているのではないでしょうか。特に専門性が高く、流動性も激しいITエンジニアの採用・定着は、企業の成長を左右する死活問題です。
しかし、もしSESという働き方が中心の事業部で「4年連続離職率0%」を達成し、さらにコロナ禍という逆境をバネに社員数を倍以上に増やし、急成長を遂げている企業があるとしたら、その秘訣を知りたいと思いませんか?
それが、今回ご紹介する株式会社リゾームです。同社はテレワークへの移行を機に、働き方を見つめ直し、DXを推進。その結果、高い従業員エンゲージメントと事業成長を両立させています。この記事では、同社の成功の裏側にある「人を活かすDX」の神髄に迫ります。
導入企業情報
企業名:株式会社リゾーム 業界:情報通信業 Webサービス・アプリ開発を手掛けるエンジニア企業。SES(システムエンジニアリングサービス)、受託開発、そして年間1,000名以上のエンジニアを育成する研修サービス「ITCOLLEGE」の3つを事業の柱としている。 |
導入前の課題(ビフォー):テレワーク移行で浮き彫りになった「組織の壁」
多くの企業と同様に、リゾーム社もテレワークへの移行期には、いくつかの大きな壁に直面しました。
【コミュニケーションの希薄化】
対面での気軽な相談や雑談が減り、特にエンジニア同士の情報共有や意思疎通に遅れが生じる懸念がありました。
【業務状況のブラックボックス化】
各社員の働きぶりが見えにくくなり、マネジメント層が業務の進捗管理や適切なサポートを行うことが難しくなっていました。
【サイロ化する情報】
事業部ごとに異なるツールやシステムを利用していたため、会社全体の情報が分断され、横断的なデータ活用が困難な状況でした。
【ITリテラシーの格差】
全社員のデジタルツールへの習熟度が均一ではなく、ツールの導入・定着に時間がかかるという課題もありました。
これらの課題は、放置すれば組織の一体感を失わせ、生産性の低下を招きかねないものでした。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):「透明性」と「自律性」を徹底的に高める
リゾーム社はこれらの課題に対し、単なるツールの導入に留まらない、組織文化の変革を伴うDXを断行しました。その核となったのが、「透明性」と「キャリアの自律性」という2つのキーワードです。
[透明性が高い制度]
【多様なクラウドサービスによる基盤整備】
コミュニケーション活性化:
Google Workspace、Slack、Zoomはもちろん、仮想オフィスツールGatherを導入し、リモートでも対面に近いコミュニケーションが取れる環境を構築。
業務プロセスの効率化:
勤怠管理のJinjerや労務手続きのSmartHR、営業管理のSenses などを導入し、バックオフィス業務を効率化。創出した時間で、より付加価値の高い業務へ集中できるようにしました。
ナレッジ活用とAI導入:
ChatGPT Teamを導入し、文章作成やアイデア創出を支援。社員のAIリテラシー向上にも積極的に取り組んでいます。
【常識を覆す「透明性」の高い制度設計】
単価評価制度:
エンジニアのスキルを正当に評価するため、クライアントからの受注単価の70%を給与・賞与として還元する評価制度を導入し、その給与テーブルをWebサイト上で完全に公開。評価の不透明感をなくし、社員の納得感を高めています。
案件選択制度:
会社が一方的に案件を割り振るのではなく、エンジニア自身が数多くの案件情報(単価や開発環境も含む)の中から、自らのキャリアプランに合ったプロジェクトを自由に選べる制度を確立しました。
【人と人との繋がりを強化する仕組み】
手厚いサポート体制:
年齢の近い先輩が若手をサポートする「メンター制度」や、担当エージェントによる月1回の面談を徹底。これにより、リモート環境下での孤独感やキャリアの不安を解消し、社員一人ひとりに寄り添う姿勢を示しています。
導入後の成果・効果 (アフター):働きがいが企業成長のエンジンに
これらの取り組みは、目に見える形で大きな成果を生み出しました。
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[リゾーム社の売上推移と社員数] |
定量的成果
【驚異の定着率】
SES事業部において、2021年から4年連続で離職率0%を達成。
【飛躍的な事業成長】
社員数はコロナ禍前の50名から120名へと倍増し、売上高も約1.5倍に急成長しました。
【生産性の向上】
業務プロセスのデジタル化により、工数を約20〜30%削減。
【働きやすさの指標】
全社リモート率は90%、月間平均残業時間は10時間未満と、高いワークライフバランスを実現しています。
定性的成果
【圧倒的な従業員エンゲージメント】
社員への匿名アンケートでは97.9%が「職場で自分の意見が尊重されている」と回答しました。この数字は、風通しの良い企業文化を物語っています。
【社員のマインド変革】
社員一人ひとりが「会社にキャリアを委ねる」のではなく、「自らキャリアをデザインする」という主体的なマインドを持つようになりました。
【BCP(事業継続計画)の強化】
テレワーク環境が整備されたことで、災害やパンデミック時にも事業を継続できる強固な体制が構築されました。
成功のポイント・工夫した点:なぜリゾームは「選ばれる」会社になれたのか?
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[アナログな人間関係を大切に]
リゾーム社の成功は、単に優れたツールを導入したからではありません。その根底には、社員のハートを射止める巧みな制度設計と、それを支える一貫した思想がありました。
【徹底した「透明性」が生み出す、絶対的な信頼関係】
何より驚きなのは、評価と給与の仕組みを完全にオープンにしたことです。「頑張りが正当に評価され、報酬に直結する」という安心感と納得感が、社員の会社に対するエンゲージメントを高めました。これは、情報の非対称性をなくすことで社員をフェアに扱うという、DXの本質を突いた施策と言えるでしょう。
【「自分で決める」キャリアが、最強のモチベーションになる】
「案件選択制度」は、社員に「やらされ仕事」ではなく「自分の仕事」という当事者意識を植え付けました。自分の市場価値を意識し、成長するために何を学ぶべきか、どのプロジェクトに挑戦すべきかを自律的に考える文化が醸成されたのです。ある社員は、「念願の開発プロジェクトに入れた」と語っており、制度が社員の意欲向上に直結していることが伺えます。
【DX時代だからこそ、アナログな「人の繋がり」を大切にする】
同社はデジタルツールを駆使する一方で、「メンター制度」や1on1といったウェットなコミュニケーションを非常に重視しています。RPAエンジニアからWebエンジニアに転向した社員は、「毎月のメンバー会が始まって同僚との結束が強くなったり、メンター制度ができて先輩からアドバイスをもらえる機会も増えていった」と語ります。デジタルによる効率化と、アナログな人間関係の強化。この両輪が、孤立しがちなテレワーク環境下で、強固な組織の一体感を育んでいます。
今後の課題、取組
「人を活かすDX」を推進し、大きな成功を収めたリゾーム社ですが、挑戦はまだ続きます。今後は、蓄積されたデータをさらに活用し、AIによる業務の自動化や高度化を推進していく計画です。また、全社員が主体的に学び、変化し続けられる「学習する組織」となるための教育・支援体制の強化にも、さらに力を入れていくとしています。
あなたの組織では、社員の「本音」や「意欲」を引き出すために、どのような情報をオープンにし、どのような権限を委譲していますか? リゾーム社の事例は、社員を信じ、情報を開示し、自律性を尊重することこそが、予測不能な時代を勝ち抜く最強の経営戦略であることを、力強く示唆しています。
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