「見向きもされなかった街」が世界中の観光客を魅了するまで
〜浅草のDX仕掛人が明かす、たった一つのシンプルな「成功法則」
導入企業情報
業界:情報通信業 |
クオリティソフト株式会社 取締役CIO 株式会社 イーウィルジャパン 代表取締役CEO 浅草観光連盟 理事 広報担当 飯島 邦夫(いいじま くにお)氏 |
導入前の課題(ビフォー)
「前回の東京オリンピック以降2010年代中頃まで、浅草はまったく注目されていませんでした」。飯島氏は当時をそう振り返ります。関東大震災や戦争で焼け野原となりながらも復興を遂げた浅草ですが、時代の変化の中で、かつての賑わいは失われつつありました。
【情報発信力の欠如】
浅草観光連盟は、街の商店主たちが本業の傍ら運営するボランティア組織。事務員が2名しかおらず、情報発信がまったくできていなかった。
【時代遅れの観光案内】
2006年にウェブサイトを立ち上げたものの、掲載されているのは歳時記などのイベント情報のみで、街の日常的な魅力や個店の情報までは伝えきれていなかった。
【インバウンド対応の遅れ】
中国人などの観光客が来始めていたものの、多言語での情報提供は追いついておらず、大きな機会損失が生じていた。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション)
この状況を打破すべく、飯島氏が中心となって「おもてなしDX」と呼ぶべき変革が始まりました。それは、個人の情熱や頑張りだけに頼るのではなく、テクノロジーの力で「継続できる仕組み」を構築することでした。
【SNSの戦略的活用】
2010年のTwitter、2011年のFacebook、2014年のYouTube と、主要なSNSを次々に導入。写真や動画を積極的に活用し、リアルタイムで浅草の「今」を発信し始めました。特に、無料で芸者衆のお座敷おどりを鑑賞できるイベントは、SNSでの拡散により大きな話題を呼びました。
【観光情報プラットフォーム「365ASAKUSA」の開発・導入】
最大の武器は、飯島氏の会社(イーウィルジャパン)が開発した観光情報プラットフォーム「365CITYWALK」を浅草向けに導入した「365ASAKUSA」です。このシステムの画期的な点は、その「徹底した自動化」にあります。
【SNS投稿がWEBサイトに自動連携】 観光連盟の広報メンバーがFacebookやInstagramに「#asakusa」などのタグを付けて投稿するだけで、その内容が自動的に「365ASAKUSA」のウェブサイトに転載・蓄積される。 |
[手軽なInstagram or Facebookで記事投稿] |
【自動多言語翻訳】
投稿された日本語の記事は、自動で英語、中国語(繁体字・簡体字)、韓国語に翻訳される。これにより、手間をかけずにグローバルな情報発信が可能に。
【拡散の自動化】
ウェブサイトに掲載された記事は、さらにTwitterにも自動でリンク付きで投稿され、リツイートによる爆発的な情報拡散を狙う。
導入後の成果・効果 (アフター)
この「おもてなしDX」がもたらした効果は絶大でした。
【圧倒的な情報発信力の向上と業務効率化】
ボランティアのメンバーが、日々の仕事の合間にSNSへ投稿する、という簡単な作業だけで、常に最新情報が多言語で発信されるウェブサイトが維持できるように。情報発信の量・質・スピードが飛躍的に向上し、広報にかかる稼働は最小限に抑えられました。
[訪日観光客は多くの国々から増え続けている] |
【インバウンド観光客の急増】 多言語でリアルタイムな情報が手に入るようになったことで、外国人観光客が徐々に増加。ムスリム向け(イスラム教徒)のハラールマップ作成 など、多様なニーズへの対応も進み、浅草は国際的な観光地としての地位を確立しました。コロナ禍においても、浅草の状況を日々投稿を続けたことで、更なる評判となりました。 |
【国内外メディアからの取材殺到】
SNSで話題になった結果、国内のテレビや新聞はもちろん、CNNなど海外の大手メディアからも取材が殺到。広告費をかけずに、絶大なパブリシティ効果を獲得しました。
【地域経済の活性化】
観光客の増加は、地域の個店にも大きな経済効果をもたらしました。365ASAKUSAでは、浅草観光連盟に加盟する飲食店や着物レンタル、人力車といった個店の体験コンテンツも紹介され、街全体の消費を促しています。365ASAKUSAがWEB検索で必ず上位に表示されることから、紹介を希望される商店や飲食店の加盟も増え続けています。
成功のポイント・工夫した点
浅草のDXが成功した理由は、単に最新ツールを導入したからではありません。そこには、地域を愛する人々の知恵と工夫がありました。
【「中の人」の情熱をDXで最大化】 「我々商売人はずっと浅草にいる。街への愛情が違う」と飯島氏は語ります。この地域への深い愛情と当事者意識こそが、DX推進の最大のエンジンでした。テクノロジーは、その情熱を世界中に届けるための「翼」の役割を果たしたのです。
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【「続けられること」を最優先した仕組みづくり】
メンバー全員が本業を持つボランティアだからこそ、無理なく、楽しく続けられることが絶対条件でした。日々のSNS投稿という、多くの人が慣れ親しんだ行為を起点に、ウェブサイト更新、多言語化、情報拡散までが自動で行われる仕組みは、まさに「働き方DX」の発想そのものです。
【「個」の魅力を束ねて「面」で見せる戦略】
「365ASAKUSA」は、個々のお店やイベントの情報をバラバラに発信するのではなく、プラットフォーム上に集約することで、「浅草」という街全体の魅力を多角的に見せることに成功しました。これにより、観光客は次々と関連情報へと回遊し、より深く浅草を知ることができるのです。
【企業の専門性を地域課題解決に活用】
飯島氏が役員を務めるクオリティソフト社も、自社の技術で浅草に貢献。災害時には、同社が開発した多言語対応の「アナウンサードローン」を活用した避難誘導訓練を実施。企業の持つ専門知識や技術を、地域というフィールドで実践的に活用する好例となっています。
今後の課題、取り組み
「今後の挑戦は、AIを活用した文章作成の自動化ですね」と飯島氏は意欲を見せます。観光DXの成功モデルを、浅草だけでなく、和歌山県湯浅町や南紀白浜など、日本各地の地域活性化へと展開しています。この「浅草モデル」が、日本の観光、そして地域の未来を明るく照らす光となることが期待されます。
あなたの街にも、まだ世界が知らない魅力が眠っていませんか? DXは、その価値を最大限に引き出すための強力な武器になります。まず、何から始めますか?
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