残業9割減で、売上1.8倍の躍進。
「やったもの負け」の空気を変えた、社員幸福度を追求するEX改革の全貌
「働き方改革を進めたいが、業績が落ちるのが怖い」「残業を減らせば、売上も減るのではないか…」
多くの経営者が、このジレンマに直面しています。しかし、もし「残業を9割以上も削減しながら、売上を1.8倍に成長させた」企業があるとしたら、どうでしょう。
今回ご紹介するのは、かつて「やったもの負け」という言葉が囁かれた組織風土を根底から覆し、社員の幸福度追求をテコに、驚異的な躍進を遂げたJR九州システムソリューションズ株式会社(以下、JQS)の物語です。働きやすさが、いかにして企業の最強の武器になるのか。その常識を覆す改革の全貌に迫ります。
導入企業情報
JR九州システムソリューションズ株式会社 業界: 情報通信業 |
導入前の課題(ビフォー):成長を阻む「やったもの負け」の壁
2016年頃のJQSは、成長のアクセルを踏み込めない重い課題を抱えていました。
【蔓延する停滞感】
社員のエンゲージメントは低く、「この会社には誇れる部分がない」「挑戦しても損するだけ」という『やったもの負け』の雰囲気が組織全体を覆っていました。
【見えにくい存在意義】
業務の多くを外部ベンダーに依存しており、社員が主体性を発揮しづらい構造的な問題を抱えていました。
【硬直的な働き方】
多様な人材がその能力を最大限に発揮できるような、柔軟な働き方の選択肢が不足していました。
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[2016年頃の社内状況]
このままでは企業の未来が危うい。この危機感が、常識を打ち破る改革の号砲となりました。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):経営戦略としての「EX向上」
JQSの改革は、単なる福利厚生の拡充ではありませんでした。経営トップの強いリーダーシップのもと、「EX(従業員エクスペリエンス)向上」を経営戦略の根幹に据えたのです。
【土台作りとしての「原則残業ゼロ」】
まず断行したのは、働き方の常識を変えることでした。2016年から「原則残業ゼロ」を徹底。 これは、社員の時間を守り、決められた時間内で成果を出す文化を醸成するという、改革の土台となる力強い一手でした。
【DXによる「場所」と「紙」からの解放】
コロナ禍を機に、テレワーク環境の整備を一気に加速させました。
✔ 完全在宅開発環境の実現
リモートデスクトップサービスSplashtopと、厳格なセキュリティを担保する「仮想セキュリティルーム」の構築により、エンジニアも自宅から安全に開発・本番環境へアクセスできる体制を確立しました。
✔ 「ハンコ出社」のゼロ化
人事労務手続きはSmartHR、経費精算などのワークフローはZAC を導入し、バックオフィス業務を徹底的にデジタル化。
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[デジタル環境の全体像]
【社員の人生に寄り添う、2つの独自制度パッケージ】
JQSはさらに、社員の自律性と多様なライフステージを応援する、ユニークな制度を次々と打ち出しました。
✔ resiwork(れじわーく)
コアタイムのない「スーパーフレックス制度」や「ドレスコードフリー」など、社員が自律的に働き方をデザインできるパッケージです。
✔ ささエール
妊娠・出産・育児を全社で応援する子育て支援パッケージ。 特に、有給で連続2週間取得できる「プレパパ育休/プレ産休」や、費用を全額補助(年齢・回数制限なし)する手厚い「不妊治療支援」は、社員に大きな安心感を与えています。
導入後の成果・効果 (アフター):「働きやすさ」が「稼ぐ力」につながった
「社員中心」への大胆な改革は、誰もが驚くほどの「躍進」という結果となって表れました。
【驚異的な生産性向上と事業成長の両立】
月平均残業を20.4時間(2015年度)から1.5時間(2024年度)へと90%以上削減しながら、売上高は約30億円(2017年度)から約55億円(2023年度)へと約1.8倍の躍進を遂げました。まさに、「働きやすさ」が「稼ぐ力」に直結することを証明したのです。
【「選ばれる会社」へ】
EX向上の取り組みが優秀な人材を惹きつけ、厳しい新卒採用市場においても、採用人数は2019年度の9名から2025年度には23名へと2.5倍以上に増加しました。
【新しい働き方の浸透】
在宅勤務率は7割を超え(2021年度)、社員満足度は96%に達しました。
【挑戦する風土の醸成】
社員からは「働き方に安心感があるからこそ、新しいことにチャレンジできる」という声が聞かれ、内製化率は40%以上に向上、プログラミング教室といった新規事業への挑戦も増えています。
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[社員数・売上高の成長]
成功のポイント・工夫した点:なぜ「常識破りの両立」は可能だったのか?
残業削減と売上増。この「常識破りの両立」を成し遂げたJQSの成功の裏には、3つの緻密な戦略がありました。
【一貫してブレない、トップの明確なメッセージ】
「さぁ、楽しんでいこう」という方針のもと、「社員が第一」というトップのメッセージが常に明確でした。このブレない姿勢が社員の信頼を醸成し、改革への強力な推進力となりました。
【改革の「順番」の妙。まず土台、次に柔軟性】
JQSは、いきなり柔軟な制度を導入しませんでした。まず「原則残業ゼロ」で効率的に働く文化という強固な土台を築きました。この土台があったからこそ、テレワーク等の施策が、真の生産性向上につながったのです。
【「全社員面談」で吸い上げる、現場の生の声】
社長自らが毎年全社員と1対1で面談し、現場のリアルな悩みやニーズを直接ヒアリング。そこで得た声をスピーディに施策へ反映する、双方向のコミュニケーションが生まれました。
今後の課題、取り組み
「レジリエント・カンパニー(変化に強く、しなやかな会社)」への躍進を続けるJQS。今後は「働きやすさ」をさらに深化させるとともに、新しい技術への挑戦や社内外のネットワーキングを通じて、経営の基本方針である「さぁ、楽しんでいこう」を実現することを目指しています。JQSの挑戦は、働き方改革の新たな可能性を示し続けています。
あなたの会社では、「残業時間」と「売上」は、どのような関係にあると思い込まれていますか?
JQSの躍進は、その常識を疑うことから始まりました。自社の「当たり前」を見直すことが、未来への大きな一歩になるかもしれません。
関連情報・ナビゲーション
JR九州システムソリューションズ株式会社 採用サイト(働き方・制度紹介ページ)
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お問い合わせ
日本テレワーク協会 窓口 guide@japan-telework.or.jp (お手数ですが、@を半角に替えてください)