社団法人 日本テレワーク協会

「全職員」の意識を変革する「Smart道庁」。16500台のスマホをテコに挑む働き方DX

「なかなか進まないペーパーレス化」「形骸化するテレワーク制度」「部署や世代間のコミュニケーション不足」…多くの組織が抱えるこれらの課題に、もし正面から向き合い、大きな成果を上げている自治体があるとしたら、その秘訣を知りたいと思いませんか?

 

人口減少、職員の退職増加という厳しい現実に直面しながら、日本最大の面積を誇り広域分散型の特色を有する北海道が、道民へのサービスを維持・向上させるために挑む「働き方DX」。これは単なるツール導入の話ではありません。「業務」「働き方」「組織風土」という3つの改革を柱に、組織を根底から変革しようとする開拓の記録です。

 

取り組み団体情報

団体名: 北海道         
業界:公務・公共

事業概要:

北海道の行政を担う地方自治体。面積約83400平方キロメートル、人口約509万人の広大な地域を管轄する。

取り組み前の課題(ビフォー)

令和元年6月に「Smart道庁推進本部」が設置された北海道庁では、組織の持続可能性を揺るがす複数の課題に直面していました。

 

【業務の硬直化と非効率】
生産年齢人口の減少に伴い職員数が減る一方、住民ニーズの多様化や地方分権拡大などを背景に業務は増加。特に内部管理的な業務(ノンコア業務)に多くの時間が割かれ、本来注力すべき道民サービス(コア業務)への集中を妨げていました。

 

【働き方の制約】
紙と有線LANと固定電話が前提の業務スタイルは、職員を物理的な場所に縛り付けていました。広大な道内を出張する職員は移動時間を有効活用できず、育児や介護と仕事の両立にも影響がある状況でした。

【組織活力の低下】
コミュニケーションの低下や旧来の組織風土は、若手・中堅層の退職者増加の一因となっていました。このままでは優秀な人材の確保も難しく、行政機能の維持すら危ぶまれるという危機感がありました。

 

取り組み内容・導入したDX施策 (アクション)

この危機的状況を打開すべく、「Smart道庁」は「業務改革」「働き方改革」「組織風土改革」の三本柱を掲げ、計画的な工程表に基づき多角的なDX施策を遂行しています。

 

1.いつでもどこでも働ける環境へ(働き方改革)

令和4年4月から本格稼働したテレワーク環境が、働き方を大きく変えました。

 

【約16,500台の公用スマートフォン配布】
これにより全職員がテレワーク可能となり、庁舎外ではスマホのテザリング、庁舎内ではWi-Fiを利用し、どこでも自席と同じように業務ができるようになりました。

 

【インフラ刷新】
持ち運び可能な軽量・高性能PCに順次更新。そしてLTE閉域網と専用線を利用したセキュアなリモートアクセス環境を構築し、セキュリティと利便性を両立させています。

 

北海道スマホビフォーアフター

[インフラと働き方刷新のビフォーアフター]

 

2.アナログ業務からの脱却(業務改革)

【電子契約の大規模導入】
令和2年度から電子契約を導入し、特に事業者から要望があれば必ず応える「事業者ファースト」の方針を徹底。これにより利用が急速に拡大しました。

 

【BPR(業務プロセス改革)の推進】
職員主導の見直しに加え、外部専門家の視点も取り入れ、業務プロセスの抜本的な効率化・省力化を推進しています。

 

3.コミュニケーションと成長の活性化(組織風土改革)

庁内イントラに職員サポート専用のページを作り、庁内専用のSNSやマニュアル作成支援システムなど含めた様々な取組をパッケージ化して職員に周知しています。

 

【庁内SNS】
所属や世代を超えた情報交換の場としてSNSを開設。遠隔地で同じ業務に取り組む職員との情報交換や、業務経験者からのアドバイスを受けられる場を設けることで、風通しの良い組織文化を醸成しています。

 

【マニュアル作成支援システム】
PC操作を録画するだけで自動で手順書が作成できるシステムを導入。異動時の引き継ぎ負担を大幅に軽減し、ノウハウの属人化を防いでいます。

 

 

    取り組みによる成果・効果 (アフター)

    これらの三位一体改革は、定量的・定性的な両面で着実な成果を生んでいます。

     

    【生産性の向上とコスト削減】

     

    電子契約:導入後わずか1年で約1万3,000件を電子化。郵送代や事業者が負担していた印紙税(約200円~20万円/件)が不要となったほか、遠方からの移動にかかる時間や交通費の削減など、双方のコスト削減と利便性向上に大きく貢献しています。

     

    紙購入量の削減:平成30年度比で約31%(約5,800万枚)の削減を達成(令和6年度時点)。

     

    マニュアル作成工数:従来比で90%削減という大幅な効率化が期待されています。

    北海道電子契約の流れ

    [電子契約のイメージ]

     

    【働き方の質の向上】

     

    時間と場所からの解放: 出張中の移動時間や自宅でも業務が可能となり、業務の効率化や家族と過ごす時間の増加につながっています。

     

    年次有給休暇の取得促進: 平均取得日数は令和4年度13.2日となり、目標であった13日を達成しました。

     

    危機管理能力の強化: 公用スマホを活用することで災害時にも現場からリアルタイムで情報を共有でき、迅速な意思決定が可能になりました。

     

     

    北海道公用スマホの活用[公用スマホの活用イメージ]

     

    成果のポイント・工夫した点

    北海道庁のDXが大きな成果を上げた背景には、緻密な戦略と工夫がありました。

     

    【強いリーダーシップと推進体制】
    副知事をトップとする「Smart道庁推進本部」が司令塔となり、全庁的な改革として一貫した方針のもと強力に推進しました。

     

    【徹底した利用者目線】
    電子契約の導入では、職員だけでなく、契約相手である事業者のメリットを最優先。丁寧な説明会で不安を払拭し、「使わない理由がない」状況を作り出したことが爆発的な普及につながりました。

     

    【現場を巻き込むボトムアップの仕組み】
    庁内の改善事例を募集し表彰する仕組みを設けているほか、庁内SNSで職員から要望のあった公用スマホのアプリを追加できる「Doアプリストア」を設けるなど、現場のニーズをスピーディーに反映する仕組みが、ツールの定着と改善を促しました。

     

    【成功事例の横展開】
    テレワークの活用方法をまとめた実践事例集を作成・共有するなど、成功体験を庁内で広めることで、さらなる活用を促す好循環を目指しています。

    今後の課題、取り組み

    今後は、生成AI(RAG)の実証実験を通じたさらなる業務効率化に取り組むとともに、BPR(業務プロセス改革)による業務の進め方の再構築や、BPO(定型業務の外部化)による定型業務の削減などを通じ業務改革を推進します。

     

     

    北海道庁の事例は、私たちに行政改革に取り組む勇気を与えてくれます。今回の事例を参考に、あなたの組織ではまず何から始められそうでしょうか? 予算ありきの前に、まずは一つの部署、一つの業務から「小さな変革」を試してみることが、未来を大きく変えるきっかけになるかもしれません。

     

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