原料価格2倍の危機を乗り越えろ!勘と経験から脱却し、赤字商品を撲滅した老舗梅干屋のデータ活用術
「今年の梅は、一体いくらになるんだ…」
江戸時代から続く梅の産地、和歌山県田辺市。 株式会社濱田は、ここで最高品質の紀州南高梅を栽培・加工し、全国の百貨店や高級スーパーへ届けてきました。 しかし、その経営は常に自然という大きな存在に左右されています。
導入企業情報
企業名:株式会社濱田 事業概要: 紀州産南高梅を使用した高級梅干や梅酒、関連商品の製造販売。自社農園での栽培から加工、販売までを一貫して手掛ける6次産業モデルを確立している。 |
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取り組み前の課題(ビフォー):予測不能な自然と縮小傾向の市場、そして迫り来る「見えない赤字」の足音
課題①:高騰する原料価格と勘と経験の限界
近年、温暖化の影響で梅は不作傾向にあり、原料価格はわずか2年で2倍に高騰するなど、その変動は激しさを増しています。従来は、最後に仕入れた価格で全ての在庫を評価する会計方法だったため、正確な原価の把握が難しく、「気づかぬうちに赤字の商品を売ってしまう」という経営リスクを抱えていました。
課題②:紙とExcel… アナログ業務の限界
農家との取引は手書きの伝票、在庫管理は担当者個人のExcel。熟練社員の頭の中にノウハウが蓄積される一方で、業務は属人化。社長が「あの農家さんの過去3年間のA級品の納入実績を教えて」と尋ねても、倉庫の膨大な伝票をめくり、回答まで丸1日かかることも珍しくありませんでした。
課題③:縮小する市場と、攻めあぐねる新規事業
食文化の多様化で梅干し市場が縮小傾向にある中、20年前から手掛ける「梅酒」などのリキュール事業も、既存の販路とは異なり、思うように開拓が進んでいませんでした。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):点在する情報を「一本化」せよ!
[アラジンオフィス概念図]
このままでは、勘と経験に頼る経営は立ち行かなくなる──。
濱田様は、2023年のインボイス制度開始を契機に、IT導入補助金を活用し、基幹システム「アラジンオフィス」のフルバージョンアップを決断しました。
取り組みのポイント
【データの大動脈を創る】
それまで農園、製造、通販と、グループ会社や部門ごとにExcelや紙、個別のソフトで管理されていた仕入れ、在庫、販売といった全ての情報を「アラジンオフィス」に一元化。経営の今を映し出す、信頼できる唯一のデータベースを構築しました。
【情報発生源でのデータ入力】
経理担当者一人に集中していたデータ入力をやめ、農家を回る原料仕入れの担当者が、帰社後に自ら伝票情報をシステムに入力する運用に変更。情報を発生源でデジタル化する仕組みを整えました。
取り組み後の成果・効果 (アフター):「守り」の効率化と「攻め」のデータ活用
データの大動脈を整えたことで、濱田様の経営はポジティブな変化を見せています。
定量的成果
【赤字商品の撲滅】
製造年ごとの正確な原料価格に基づいた原価計算が可能になり、損益分岐点を下回る商品はほぼゼロに。価格変動に耐えうる強固な経営体質を確立しています。
【リキュール売上2倍】
顧客データや販売実績の分析に基づいた戦略的な営業活動が実を結び、伸び悩んでいたリキュール事業の売上が約2倍に成長。
【検索時間98%削減】
1日かかっていたデータ検索や集計作業が、わずか10分で完了。 意思決定のスピードが飛躍的に向上しています。
定性的成果
【データに基づく的確な意思決定】
「今年は不作でA級品が少ないが、過去3年分の在庫をみるとなんとかしのげる」といった、データに基づいた在庫戦略や価格設定が可能になりました。
【属人化の解消と業務平準化】
一人の担当者に依存していた業務が標準化され、誰でも必要な情報にアクセスできるようになり、組織としてのリスクヘッジにも繋がっています。
【データ活用文化の醸成】
従業員から「こんなデータも出せますよ」といった自発的な提案が生まれるようになり、会社全体でデータを武器に戦う意識が芽生え始めています。
成功のポイント・工夫した点:現場の「面倒くさい」を「それ、いいね!」に変えた言葉の力
DXの成否は、現場をいかに巻き込むかにかかっています。濱田様が特に工夫したのは、従業員とのコミュニケーションでした。
【現場の「痛み」に寄り添う語りかけ】
「システムを導入する」ではなく、「あの倉庫の奥から、三年前の伝票を探す作業、もうやらなくて良くなるよ」と語りかけました。新たな業務を「負担」ではなく、現在の面倒な作業からの「解放」と伝えることで、現場の納得感を引き出しています。
【「自分の仕事が、会社を強くする」実感の共有】
原料担当者が入力したデータが、社長の経営判断や営業担当の戦略に直結する、データ検索を依頼し、出てきた結果に対して「ありがとう、助かった!早いね!」と感謝を伝える、この小さな成功体験の積み重ねが、「自分の入力したデータが役に立っている」という誇りと責任感を育んでいます。
【経営トップのブレない覚悟】
「これからの時代、データを見ずに経営はできない」。 経営者自らがその必要性を誰よりも強く認識し、導入を主導。アナログな業務に慣れた従業員たちの不安や抵抗に対し、粘り強く対話を重ねたことが、改革を成功に導く最大の推進力となりました。
今後の課題、取り組み
データの大動脈という土台はできました。これからの挑戦は、この土台の上で、全社員がいかに創造性を発揮できるかにあります。「今後は、営業担当が『このデータを使えば、こんな提案ができます』と自ら考え、行動できるようになってほしい。社員一人ひとりがデータを使いこなし、自分の仕事の価値を高めていく。そんな組織を目指しています」と代表取締役の濱田氏は語ります。
あなたの会社では、経験や勘だけに頼った意思決定が、見えないリスクになっていませんか?
[代表取締役社長 濱田 朝康 氏]
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