デジタルツールの導入により、試算上では年間約7,000時間の業務削減が図られてはいるが、職員にはその実感が・・・
「DXと言われても、何から手をつければいいのか分からない」「現場は日々の業務で手一杯で、新しいことに取り組む余裕がない」多くの組織がそんな悩みを抱えています。
北海道の”へそ”のまち、富良野市では、新庁舎供用開始とともに、全職員へのタブレット端末貸与や電子決裁、RPAの導入などにより、導入前と比べ、年間約7,000時間の削減が図られているとの試算結果がでましたが、職員アンケートでは、「自分自身の働き方にあまり変化はない」と回答した方が約4割いました。
取り組み団体情報
![]() [市役所の新庁舎のイメージ] |
団体名: 富良野市役所 事業概要: 北海道富良野市における行政サービスの提供。農業と観光を基幹産業とし、「全国市区町村魅力度ランキング」では常に上位にランクインする。 |
取り組み前の課題(ビフォー):職員の事務にかかる業務負荷を下げたい
富良野市は、年間約190万人が訪れる観光地でありますが、この10年間で人口は約3,000人減少し、農業や観光以外にも多くの分野で労働力不足が深刻化しています。また、市民ニーズの多様化や業務量が増大していくなかで、職員の中からは、「事務にかかる業務負荷を下げたい」「本来業務に集中したい」「業務をよりよくする仕組みが十分でない」といった声が、改革の出発点でした。
【紙文化と手作業】
令和2年度に庁内3,007業務の棚卸を行い、各部署のヒアリングを行った結果、紙帳票による決裁やパソコンへの手入力による作業、会議などの議事録の作成に多くの時間を割いているとの声が上がりました。
【現場のジレンマ】
多くの職場で「業務量が多く、現行業務の改善や工夫に時間を割けない」「職員の育成に十分な時間をかけられない」といった意見もあり、時間的・精神的な余裕を持てずにいました。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):ツールの導入と人材育成
富良野市では、令和2年4月に、企画政策部門、情報システム部門、行政改革部門を併せ持つDXの司令塔として「スマートシティ戦略室」の設置からスタートし、業務の見直し、デジタルツールの導入、そして、DX人材の育成へと進めてきました。
[ペーパーレス会議の様子]
まず、令和4年9月の新庁舎供用開始を機に、庁内無線LANを整備し、全職員にタブレット端末とモニターを貸与。 打合せや会議はタブレット端末を持ち込んでの「ペーパーレス会議」や、紙のハンコを不要にする「電子決裁」を導入し、少しでも紙を減らす環境を整えました。
そして、令和5年度からは、全職員の2割に相当する約50名を5年間でDX人材として育成する取り組みをスタートしました。この取り組みは、DX推進員として選出された職員がDX推進チームとして月1回集まり、職場の課題の洗い出しやDXに向けたアイデア出し、業務フローの作成やローコードアプリの構築による業務改善を行いました。
例えば、消耗品については、これまで総務課が毎週1回在庫確認を行い注文・補充を行っていましたが、消耗品の在庫切れなどがたびたび発生していたため、DX推進チームで業務フローを作成し、職員が消耗品の持ち出しの登録、総務課が管理画面で在庫確認できる「消耗品管理アプリ」を構築しました。
[DX推進員が開発した消耗品管理アプリの画面と、DX推進チームの会議の様子(右上)]
取り組みの成果・効果 (アフター):3年で約36%(89万枚)の紙削減
定量的成果
【ペーパーレス化の進展】
庁内の紙の使用枚数は、令和3年度の249万枚から令和6年度には160万枚へと、3年で約36%(89万枚)削減されました。
【市民サービスの向上】
「書かない窓口」の導入により、住民票の発行時間は4分、印鑑証明の発行時間は2分短縮され、市民の待ち時間短縮につながっています。
定性的成果
1年間の活動を終えたDX推進員には、市長から直接、認定証とオリジナルのネクストラップが手渡されています。卒業した職員の中には、職場の改善を試みている方も見られます。
工夫した点:なぜ富良野市は変われたのか
1. トップのコミットメントと推進体制
市長自らが「余力なくして変革なし」とDXの必要性について職員に語り、スマートシティ戦略室がこまめな職員研修の実施と、熱量を高める人材育成を継続して取り組んでいました。
2. 「課題の見える化」から始めたステップ
まずは、全3,007業務を棚卸しするという作業から着手してボトルネックの把握と、庁内35課のヒアリングによる課題の把握に努めてきました。
3. 「自分ごと」として捉える人材育成
DXを職員が「他人ごと」ではなく「自分ごと」として捉えるため、「座学的な研修」ではなく「ハンズオン的な経験」を重視しました。 自ら課題を見つけ、仲間と議論し、自ら解決策を形にする。この一連の「体験」が、職員の当事者意識を育む推進力となりました。
今後の課題、取り組み:創出した時間で、市民の未来を創造する
富良野市の挑戦はまだ道半ばです。今後は、2028年度までにDX推進員を5年間で50名規模へと拡大し、各部署での自発的なDXを進めていくことに期待しています。
そして、業務効率化というDXで創出した時間を、市民との対話や地域課題の解決、新たな市民サービスを企画・立案するDXへと振り向けていけるように進めています。職員の働きがいが、市民の暮らしやすさへ。富良野市の挑戦が試されています。
富良野市の取組みは、特別な機材や多くの予算がなくても、職員一人ひとりの「気づき」と「やってみよう」という熱量から変革は始められることを意識しています。あなたの職場には、どんな「非効率」が隠れていますか? それを解決する小さなアイデアが、組織全体を動かす大きな変革の第一歩になるかもしれません。
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