ワンオペ経営の壁を「チーム」で突破。理容店主が支援機関との連携DXで売上1.5倍を達成できた理由
「お客様への接客にもっと集中したいのに、日々の事務作業に時間がとられてしまう…」ワンオペレーションで事業を営む多くの経営者が、そんなジレンマを抱えているのではないでしょうか。
本来最も注力すべき価値提供の時間が、目に見えないバックオフィス業務に削られていく。この普遍的な課題に対し、一人の理容店主が「チーム」の力で立ち向かい、見事な成果を上げました。
今回ご紹介するのは、山口県山口市の理容店「BARBER CALM」。店主の中村太一氏が、支援機関との連携による「連携DX」でワンオペ経営の壁を乗り越え、売上1.5倍を達成した物語です。これは、個人の力を最大限に引き出すチームアプローチの成功事例であり、多くの事業者に勇気とヒントを与えてくれます。
導入企業情報
企業名:BARBER CALM(バーバーカーム) 山口県山口市の中心商店街に位置する理容店。競技会での優勝経験も持つ店主の高い技術力、特にフェードカットに定評があり、幅広い世代の男性客から支持を集める。 |
導入前の課題(ビフォー):孤軍奮闘のワンオペ経営。見えない時間に奪われる「本来の価値」
2024年9月、21年のキャリアを持つ理容師の中村氏は、念願の自身の店「BARBER CALM」をオープンしました。高い技術力と気さくな人柄で、お店は順調に滑り出したかに見えましたが、ワンオペレーション経営ならではの大きな壁に直面していました。
【週末に集中するお客様、平日のアイドルタイム】
お客様の来店が週末に集中する傾向があり、平日の集客をどう伸ばすかが課題でした。
【接客に集中できない事務作業の重圧】
本来、お客様と向き合う接客に9割の時間を使いたいと考えていましたが、実際には予約管理、日々の売上記録、経理といったバックオフィス業務に多くの時間を割かれていました。この接客以外の業務比率の高さが、大きな負担となっていました。
【課題解決の糸口】
「このままではいけない」という危機感を抱え、課題は明確に認識していたものの、日々の業務に追われ、具体的な解決策を見出すことができずにいました。「お客様一人ひとりに丁寧に向き合いたい」という想いとは裏腹に、目に見えない事務作業が、理容師として最も価値を提供すべき時間を静かに奪っていたのです。
取り組み内容・導入したDX施策 (アクション):三位一体の支援体制が、課題を「解決できる計画」に変えた
転機となったのは、中村氏が抱える課題を公益財団法人 山口県生活衛生営業指導センターへ相談したことでした。専務理事の工藤氏、センターの地域デジタル相談員が中村氏の「もっと店を良くしたい」という熱意を真摯に受け止め、中小企業診断士といった専門家を派遣する伴走支援がスタート。
そして、この地域に密着した支援体制を、さらに専門的な知見で支える存在がいました。厚生労働省の委託事業として、株式会社NTTデータ経営研究所が、全国の指導センターに所属する地域デジタル相談員への研修や、現場で活用できる分析ツールの整備、専門的な助言などを提供していたのです。
同研究所の土屋氏らは、今回のBARBER CALM様の事例においても、経営課題の分析手法やデータ活用の設計といった”考えるための武器”となるフレームワークを提供することで、山口県生活衛生営業指導センターによる伴走支援を側面から力強くサポートしました。
こうして、事業者(中村氏)、地域の支援機関(山口県生活衛生営業指導センター)、そしてそれを支える専門機関(NTTデータ経営研究所)という三位一体の強力なタッグが生まれたのです。この手厚い支援体制のもと、ワンオペでも無理なく継続できる具体的な施策が計画・実行されていきました。
【無料ホームページ作成ツールの活用】
まず着手したのは、お店の顔となるホームページの開設でした。専門業者に頼むのではなく、無料で使える「グーグルサイト」を活用し、コストを抑えながらお店の魅力やスタイルを発信する基盤を整えました。
【クラウド会計ソフトの導入】
経理業務の負担を劇的に削減するため、クラウド会計ソフト「マネーフォワード」を導入しました。これにより、手作業だった売上データの転記や集計作業の効率化を図りました。
【SNS広告による戦略的な集客】
ホームページへの誘導や、平日の来店を促すため、SNS広告などを活用した販売促進に取り組みました。
重要なのは、指導センターが単にツールを提案するだけでなく、中村氏が納得し、着実に実行できるよう、不安を解消しながら二人三脚で歩みを進めた点です。まさに、この伴走支援こそが、DX成功のエンジンとなったのです。
導入後の成果・効果 (アフター):売上1.5倍、そして「働きがい」の向上へ
伴走支援によるDXの導入は、目に見える形で成果となって現れました。
【驚異的な売上向上】
デジタルでの情報発信が功を奏し、新規の地元顧客の獲得とリピート需要の喚起に成功しました。開店からわずか数ヶ月で、売上は1.5倍に向上しました。
【顧客動向の質の変化】
課題であった集客の平準化も進み、平日にもお客様が増え、店全体が活気づきました。
【業務効率化による「ゆとり」の創出】
クラウド会計の導入で、経理業務の時間が大幅に短縮されました。中村氏は「接客以外の業務を40%削減する」という目標を掲げ、削減できた時間をお客様へのサービス向上や自身の技術研鑽に充てるという好循環が生まれ始めています。
[開店月の1.5倍の売り上げを達成]
数値的な成果以上に大きな変化は、中村氏自身の「働きがい」でした。煩雑な事務作業から解放され、本来最も大切にしたかったお客様とのコミュニケーションやサービス提供に集中できるようになったことで、仕事への満足度も大きく向上したのです。
成功のポイント・工夫した点:技術(デジタル)と心(人)の連携が鍵
なぜ、BARBER CALMのDXは成功したのでしょうか。その秘訣は、事業者と支援機関の理想的な関係性にありました。
【事業者の「熱意」と、二重三重の「手厚い支援体制」】
今回の成功の最大の要因は、中村氏の「現状を改善したい」という強い想いと、指導センターによる地域密着の直接支援、そしてNTTデータ経営研究所による専門的なバックアップという、重層的なサポート体制が見事に噛み合ったことに尽きます。中村氏の熱意が支援者の心を動かし、支援者の的確なアドバイスが中村氏の行動を後押ししました。
【信頼に基づいた「二人三脚」の体制】
ツールを導入して終わり、ではありません。指導センターは導入後も継続的に関わり、中村氏が自走できるようサポートを続けました。この「いつでも相談できる」という安心感が、中村氏が前向きにDXに取り組む上での大きな支えとなったのです。
【目的志向のツール選定】
「平日の集客」「事務作業の削減」といった明確な目的があったからこそ、導入すべきデジタルツールがブレませんでした。多くの機能の中から、今の自分たちに必要なものは何かを見極め、スモールスタートを切ったことが、着実な成功へと繋がりました。
今後の課題、取り組み:目指すは「週休2日制」。働き方改革のネクストステージへ
大きな成功を収めた中村氏ですが、挑戦はまだ続きます。
今後の目標として掲げるのは、さらなる業務効率化を進めた先にある「週休2日制の実現」です。
生産性を高めることで、自身の時間と心のゆとりを確保し、理容師という仕事を生涯にわたって楽しむ。それこそが、中村氏の目指す「働き方改革」の姿です。生み出された時間で、新しいサービスの開発や、自身の経験を活かした次世代の理容師育成にも貢献していきたいと、中村氏は未来を語ります。今回の成功は、ゴールではなく、新たなステージへのスタートラインなのです。
ワンオペの壁を「チーム」で乗り越え、次のステージへと歩み始めたBARBER CALMの事例は、DXが特別な企業だけのものではないこと、そして、身近な場所に頼れる”伴走者”がいることを教えてくれます。
[BARBER CALM 中村氏]
あなたの会社では、誰に、どんなことから相談できそうでしょうか?まずは、お近くの商工会議所や、今回の中村氏のように生活衛生営業指導センターのドアを叩いてみてはいかがでしょう。その小さな一歩が、未来を大きく変えるきっかけになるかもしれません。
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