アイ・モバイル株式会社

業種
情報通信業
企業規模
31~100名
課題
育児/介護 / 生産性向上 / 採⽤と定着 / エンゲージメント向上
2020年初頭、世界がパンデミックの混乱に陥る中、アイ・モバイル株式会社はいち早く「社員の命を守る」という不変の優先順位を掲げ、全社フルリモート体制へと舵を切りました。 同社のテレワークが他社と決定的に異なるのは、単なる制度の導入にとどまらず、2000年の創業当初から家族都合等でオフィスに通勤できなくなった社員のために在宅勤務を導入していたこと、および社長自らが情報取集等のために海外からのリモートワークを体現していた点にあります。この「トップが自ら実践し、その働き方を社員に発信する」という姿勢こそが、全社的な意識改革を成功させた最大のポイントでした。
■YouTube動画
挑戦:パンデミックを会社の存続危機と捉え、迷わず「社員の命」と「お客様へのサービス提供の維持」のために全社テレワーク体制を選択
アイ・モバイルが直面した課題は、単なる働き方の変更ではなく、文字通りの「企業の生存」に関わるものでした。
■「社員の命を守る」ための超早期の決断
2020年1月下旬、まだ日本国内でマスク着用が一般的ではなかった時期に、社長が社員の安全確保を最優先し、即座に全社員に在宅勤務を指示しました。その時期に海外在住中であった社長のグローバルな視点と早期の情報収集が、日本におけるパンデミック本格化前の迅速な初動を可能にしました。
■例え1年間「売上ゼロ」でもお客様にサービスを提供し続けられる体制づくり
先行きの見えない経済状況下で、社長が掲げた目標は「1年間売上がなくても社員やインフラを維持することで仕事を止めず、お客様へのサービス提供を止めない体制を固める」ことでした。そのためにまず、全社員テレワークにより不要となる項目(月間数百万円にのぼる東京の高額なオフィス費、オフィス等の維持費、通勤交通費等)を聖域なく削減し、キャッシュフローを確保する必要がありました。
■アナログ文化からの完全脱却
長年「オフィスで顔を合わせて働く」を「自宅でオンラインで働く」への社員の意識改革や、オフィスでの電話・FAX・紙の書類の保管等の当たり前だった業務フローを短期間で完全にテレワークに適合するための文化的、現物的なパラダイムシフトが求められました。その際、社員の意識改革を促進させたのは「短期間でのオフィスの退去」でした。何を残すではなく、何も残せない状況を作り出したことで結果的に全社員の意識の方向性が半ば強制的に一致し行動できました。

独自戦略:成功の鍵は「トップ自らのテレワーク実践」「ハイブリッドワーク」「働き方の多様化」
同社が短期間でテレワークを定着させ、成果を上げた背景には、象徴的かつ合理的な戦略がありました。
■最大の成功要因:社長の海外からのテレワーク(ハイブリッドワーク)の実践と社員への情報発信
アイ・モバイルのテレワークが成功した最大の要因は、社長自らが以前より海外からのテレワークによる経営を率先して実践していたことにあります。社長自らハイブリットな働き方を自ら実践することで「オフィスでないと仕事は出来ない」という心理的障壁が下がりました。トップが自律的な働き方を体現することで「アイ・モバイルの新しい文化でありプレミアムな働き方」へと進化しました。
■実体としての「3坪のオフィス」への移転
2020年6月、同社は全社員テレワークで無駄になった従来の広いオフィスを解約し3坪のレンタルオフィスへと縮小移転しました。社員が「どうしたらテレワークでも今までと同じ働き方と結果を出せるか」を考えることができ、システムの導入・業務フローと働くルールの最適化が短期間で一気に進みました。6月からの6か月間で「オフィスが無くても今まで通りお客様にサービスを提供できる」と社員が考え、自主的にハイブリッドな働き方への移行要望が出てきた点は働き方の進化でした。そのため2020年12月からは、今までの「自分の席がある広いオフィス」から「必要な時に必要な人が必要な時間使用する効率的なオフィス」をつくりました。
また、全社員が集まる機会を年2回実施しています。グループディスカッション、発表、懇親会、イベント等を実施し、普段のテレワークでは補えないことを集中して実施しています。

■テレワークで実現できた働き方の多様性と評価の最適化
同社では、テレワークを実践した結果、住む場所や働く場所の制約が非常に小さくなりました。そのため社員は自宅以外からの勤務や、家庭都合等による転勤で遠隔地からの勤務も選択できるようになりました。また、オフィス勤務では短時間勤務しかできなかった育児や介護をしていた社員や応募者が8時間勤務を希望してきたことは嬉しい誤算でした。また、テレワークは効率的に労働時間を自分で配分できるフレックス勤務との相性がよく、フレックス勤務に移行したチームが増え、現在は8割を超える社員がフレックス勤務です。
テレワーク勤務だと社員がどんな仕事をしているか見えなくなる懸念も当初はありましたが、もともと同社は目標管理制度による人事考課を長年に渡り実施していました。この目標管理制度がテレワーク制度との相性が良かったことも新しい発見でした。社員ごとの目標の進捗やプロセスを毎月の1on1で上司が確認し支援することで、社員自身で自主的な働き方を促してきた評価制度のため、社員がオフィス以外で勤務をしていても、進捗を把握することができ正しく人事考課をすることができます。
成果:全国規模の採用成功と、強固な経営基盤の確立
戦略的な改革は、同社に多大な実利をもたらしました。
■地理的制約からの解放による採用の成功
テレワーク勤務を絶対条件としているエンジニア、フルタイム勤務を希望する育児年代の方などの採用に特に有利で、他社との差別化ポイントになっています。今までは「当社から仕事のPRをする」必要がありましたが、テレワーク勤務という条件で応募者が当社を選んで頂けているため、当社への志望度が高い状態で仕事の話ができるのは強いメリットです。
■離職率の劇的低下とウェルビーイングの向上
多様な働き方が可能になったこと、通勤ストレスが解消されたこと等で2020年8月に実施したテレワークの必要度が99%と同社の新しい働き方として定着し始め、その効果で社員の定着率が大幅に向上(退職者の減少)。また、以前はメンタル不調で休職せざるを得なかった社員も、自宅というリラックスできる環境であれば業務を継続できるケースが増えるなど、社員の心身の健康と事業の継続が両立されています。
■固定費の削減と「人」への再投資
オフィス維持費だけで年間数千万円規模のコスト削減を実現。その原資を社員の給与や福利厚生に充てることで、企業としての競争力がさらに高まり2020年以降増収を続けています。また、テレワーク下での業務効率を高めるため、最新のITインフラ整備にも積極的に投資しています。
木城氏のコメント:
「テレワークのおかげで、社員全員が同じ働き方でなくて良いと確信できました。各自のライフスタイルを尊重しながら成果を出す。これが今のアイ・モバイルの強みです」
こだわり:管理を「目標」に置き換え、社員を信頼する文化
同社がテレワークにおいて最もこだわっているのは、マイクロマネジメントを排除した「数値による目標管理」の徹底です。
■自律を促す目標管理制度
半期ごとに個別の目標を数値化し、達成率(例:120%でS評価)によって客観的に評価する仕組みを長年運用しています。上司が常に隣にいなくても、「何をもって成果とするか」が明確なため、社員は迷わず自律的に動くことができます。
■リアルな交流への「逆張り」投資
普段会わないからこそ、たまの交流には全力で投資します。2023年以降はディズニーランドでの秋の懇親会を開催し(2025年は関西・大阪万博のオーストラリア館で社員集会を実施)、定期的な全社員集会や懇親イベントを設けることで、デジタル時代だからこそ「生身の信頼関係」を大切にしています。

苦労:PDF化の闘いと「出社したい」ベテラン層との対話
スムーズな移行の裏には、現場の地道な努力もありました。
■膨大な「紙」との決別
オフィス解約時、最大の壁となったのは大量の紙の書類でした。各部(特に管理部門)が、数ヶ月かけてすべての書類を選別(書庫への発送)し、必要な書類等をPDF化し、クラウドへ移行。この「物理的な断捨離」がテレワーク導入と効率的なオフィスの導入には必要不可欠でした。
■コミュニケーションの再構築
テレワーク初期には「寂しさ」や「チャットのみでのやり取りでの誤解」や「働きすぎ」という課題も発生しました。これに対し、チーム別のオンライン朝礼や、ZoomMTの促進、20時以降の勤務の原則禁止、休日・深夜のチャット投稿の原則禁止など、安心して社員が意見を言える仕組みや働きすぎを防ぐルールを策定し、テレワークでのコミュニケーションに対する心理的安全性を確保していきました。
未来:オフィスを「持たない」選択肢と、場所を問わない働き方の追求
アイ・モバイルは、現状に満足することなく、さらにその先を見据えています。
■究極の「箱なし」経営への構想
「箱(オフィス)を作ったら、人はそこに物を積み込もうとするもの。だから、もうオフィスは最小限の機能でよいと思っている」と語ります。究極的には物理的な拠点に縛られない組織の形を模索し続けます。オフィスよりも人への投資に重点を置いているため、採用力と社員の定着率も向上しています。
■真の「場所にとらわれない働き方」の定着
日本全国もしくは海外でも働くことができ、かつ最高のパフォーマンスを発揮できるインフラとマインドセットをさらに追求し、組織の柔軟性を高めていきます。
アドバイス:経営者の「実践」こそが、最強のメッセージ
これから働き方改革に取り組む企業へ、アイ・モバイルからのアドバイスです。
「テレワーク導入は技術的な問題ではなく、トップがどれだけ本気か、という問題です」
まずは、経営者自らがテレワーク(ハイブリッドワーク)を率先して実施し、リモートでも成果を出すことができる現実を社員に見せることが最重要な打ち手です、インフラやルールなどは次の打ち手です。トップが率先して実践し「テレワークは効率的に成果を出せる」ことを証明することで、社員は安心して新しい働き方に挑戦できます。その経営者の率先した第一歩が、社員の自律を引き出し、変化に強い組織を作る最短の道です。








